第19話 雨のお迎え編3

いた。あんなところにいた。


男の子、発見。


机の前に座り、真剣な目で、何か本を読んでいる。


ここは図書室。男の子の周囲に人はおらず、

ページをめくる音しか聞こえてこない。


まったく、手間をかけさせちゃって。

姿を見つけるの、時間かかったんだから。


私は、雨の中、男の子のお迎えに来ていたのだが、

なかなかお迎え場所に現れないので、学校中のあちこちを探し回っていた。


どうして図書室にいるのかな?

お迎えの約束を、忘れていたのだろうか?

いけない子だ。

ちょっとばかりお仕置きをしてやろうか。

うふふ。私は心の中で、いたずら心をめばえさせていった。


どんなイタズラをしてやろうか?

そーっと近づいて、いきなり声をかけてみてはどうだろうか?

よし、そうしよう。


私は、そーっと近づいていく。

男の子はまだまだ気づかない。


それにしても、いったい、なんの本を読んでいるのだろうか。

ここからだと、よくわからない。

まあ、どうせ児童書か何かだろう。


「……」


男の子は、こっちにまったく気づいていない。

読書に夢中の模様だ。

うふふ。


本が好きなのね?

本が好きなのね?


でも、もう少し周囲に気を付けないと。

周囲に気を付けないと……こうだぞ!


「お姉さんにも本を見せてくれるかな?」


急に声をかけた。

そして、男の子があっけにとられた瞬間、

男の子の読んでいた本を、シュッと奪い去った。


「わぁ!?」


静かだった男の子は、突然に本を奪い去られ、爆弾のような声で驚いた。

図書室ではお静かに。

って、私が驚かせたんだけどね。てへへ。


男の子は、茫然(ぼうぜん)とした表情で、こっちを見ている。

だが、ずっと黙ったままだ。

あれ? 驚かせすぎちゃったかな?


数秒後、ようやく男の子の口が開く。


「ど、どうして、ここがわかったの……」


わかったというより、しらみつぶしに学校探索したら、

ぐうぜん見つかったというだけの話なんだけどね。

でも、ここは、私のスマートさ(?)を強調することにした。


「家政婦は、なんでもお見通しなんだよ」


ふっ。髪をさらりとかきあげる。ドヤ顔しながら。


「ところで、なんの本を読んでいたの?」

「あっ……」


私は、男の子から取り上げた本を、ちらりと見る。


他人から取り上げた本をのぞくのは、行儀の悪い行為かもしれないけど、

そのときの私は、イタズラ心が高まっていたので、

わりと平気でそういう行動をとってしまっていた。


でも男の子は、妙に困惑している。

そんなに困惑してどうしたのだろう?

まさか、変な本なのかな?

でも図書室だし、えっちな本もないだろうし……。

仮にあったとしても、男の子がそんな年齢でそういう本を読むはずがないし……。


私は、取り上げた本を、パラパラと雑にめくる。


結論から言えば、イラスト付きの児童書だった。

文章のほうが多いけど、絵の量もかなり多い。

昔見た、子供向け番組の絵に似ている。

見た感じ、幽霊とか吸血鬼とか、かぼちゃとか、そういう絵が載っている。


ふーん。

私は、本を男の子に返した。


「こういうのが好きなんだね」


「うう……」


あれ? なんか泣きそうな顔をしだしたぞ?

読んじゃいけなかったかな?



つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る