第11話 ホラー映画編1

男の子と一緒に、ホラー映画を見ることになった。


自宅リビングの、大きなテレビの前に、私と男の子が隣同士で座る。

大きなテレビには、映画タイトルが表示されている。

おどろおどろしいタイトルロゴだ。


ホラー映画のパッケージをちらりと見る。

正体不明の殺人鬼に襲われるという、

いかにもな内容の、よくあるホラー映画だ。


映画が始まった。いきなり、男の子の肩が、びくっと震えた。

別に怖い場面でもないが、これから何かが起こりそうな、

怖い予感が、男の子の肩を震えさせたのだろう。


正直、私はあまり怖さを感じていない。

男の子がどんな反応をするか楽しみで、

テレビ画面より、男の子の反応ばかり見ることになった。


泣いている男の子の姿、

困っている男の子の姿、

どれも私の中では、「かわいい」扱いだ。

このホラー映画を見て、どこまで顔がグジュグジュになっていくのか、

とても楽しみだ。


なお、先に伝えておくが、

私がホラー映画を見ようともちかけたわけではない。


それは、つい30分ほど前のことだった。

夕食の片づけを終えた私に、男の子が、もじもじしながら、

話しかけてきた。


「あの、あの……」


男の子は、とても弱気な子だ。

家政婦の私と暮らし始めて、まあそれなりの日数は経過したのだけど、

いまだに、もじもじしながら話しかけてくる。


その様子がとてもかわいいのだが、

何を言いたいのかわかりにくいので、

再度、私から話しかける必要があった。


「どうしたの? 何かお話したいことがあるのかな? うふふ」


笑いながら、優しく話しかけることで、男の子の警戒心を解く。


「うん」


男の子はうなずく。

これで、何か話したいことがあるのはわかった。

さて、どんなことをお話したいのだろう。


そのとき、私は、男の子が何かを持っていることに気づいた。


「ん? 君、何か持ってるね?

 その手に持っているのは何かな?」


「これ、一緒に見てほしいの」


「え? なにこれ。

 怪物かな? わぁー、怖そう~!」


パッケージに、怪物がデカデカと描かれた、

「いかにも」なホラー映画だった。

(説明をよく見ると、この怪物は「殺人鬼」らしい)


でも私は、それなりにホラー耐性がある。

正直、怪物程度では驚かない。

ただ、男の子が「ホラー映画を見たい」と誘ってきたことについて、

とても驚いていた。


気弱な男の子が、なんでホラー映画なんか見たがるのだろう。

とても気になる。


とはいえ、私と一緒に見たい、ということは、

ひとりで見るのが怖いのかと思う。

そこの点だけ見れば、やはり気弱な子だなぁと感じた。


「じゃあ、そこのソファに座って、一緒に見ようか!」


私と男の子は、ソファに座った。隣同士で。


「ええっと、再生再生っと」


再生ボタンを押す。ホラー映画のタイトルが表示される。


「うう……怖い……」


男の子は、自分の両目を、手で隠した。


いきなり怖がってるんだけど!?

まだタイトルだよね? 本編にすら進んでいない。

これでどうやってホラー映画を見るのだろうか。


でも怖がっている男の子、とてもかわいい……。

私は、だんだんと、いたずら心を強めていった。

そして行動に出る。


「えい」


私は、男の子の肩を手で触った。


びくびくっ!

男の子は、肩を激しく震わせた。


「やだっ!」


私の手を振り払う。


私は、いたずらの手をゆるめず、

男の子の脇腹を少しだけつんつんして、くすぐるようになぞる。

男の子は、きゃあきゃあと言いながら、ソファの上を転がる。


「えへへー! どうだ!

 ちゃんと見ないとだめだぞー!」


私は、ややゲスっぽい声を出して、男の子をいじった。


「わかった、見るから、変なことしないで……」


男の子は、すでに涙目だ。

か、かわいい……。


その涙目に免じて、もっといたずらしてみたくなったが、

ホラー映画に集中させるため、いったん手を止めた。



つづく

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