第12話 ホラー映画編2


ホラー映画の本編が始まった。


私の横に座っている男の子は、すでにタイトルだけでノックアウト寸前である。

顔が青い。本当に全編見れるのだろうか。

心臓停止にならないか? 心配だ。

だが、心臓停止するには、あまりにチープな内容だった。


殺人鬼が、人間を次々と殺していく内容なのだが、

わざわざ電話をかけてから殺しにいくのである。

相手の電話番号を調べるのめんどくさくない?


しかも、殺人鬼が使っているのは公衆電話である。

いまどき公衆電話!? 嘘でしょ。

ぜったい町中で見つけるの苦労するよね?

携帯電話代金が払えないのだろうか。


そんなビミョーな感じの殺人鬼。

なのに、男の子はブルブル震えて怖がっている。

怖がりの見本とも言うべき震え方だ。

男の子の周りだけ、震度7はあると思う(言い過ぎ)


さて、この殺人鬼、きょうも公衆電話から、

ターゲットに電話をしようとしていた。

が、小銭が足りない。

大変だ。電話がかけられない。殺しにいけない。


殺人鬼は、財布を開いたり、ポケットを探ったりするが、小銭はない。

やばい。このままでは殺人ができない。

殺人鬼の初の挫折と思われた。


そのとき、殺人鬼は、頭を働かせ、

公衆電話の横の自販機の釣銭口から、10円玉を見つけた。

これでようやく、ターゲットに電話をかけて、殺人を遂行した。


これホラー映画? 本当に? しょぼっ。


私は、横に座る男の子を、ちらりと見る。

しっかり震えている! さすが震度7! ミスター震度7!

ホラー映画視聴者の鑑とはこのことだろうか?


怖がる男の子に比べて、私は何も怖くない。

不感症のごとく。

私は、ホラーに対する感覚がにぶっているのだろうか?


ホラー不感症疑惑。

私は違和感を抱きながらも、本編を見続ける。


なんと、ついにキャッシュレス公衆電話が登場した!!

これで小銭に悩まずに済む。

殺人鬼は、スマホを取り出すと、

「最近キャッシュレス多すぎてどれにしようか迷うよ~」

とほざきながら、キャッシュレス決済「タブンペイ」を選んで、

公衆電話をかけだした。


まずそのスマホで通話しろ!


最高潮のツッコミどころに、私の心がざわめきだす。


男の子は、それでもまだ怖がっている。

いったい何がそんなに怖い? 公衆電話が怖いのか?

この生後数年の男の子にとって、公衆電話は未知の存在であり、

それはすなわち、恐怖の存在なのかもしれない。


このホラー映画は未来をいきすぎている。

理解もツッコミも追いつかなかった。


あまりの展開に、男の子に、ちょっと意地悪したくなってきた。

ここで私がいなくなったら、どんな反応をするのかな?

ちょっと試してみよう。


「ねぇ、私ちょっと用事が残ってるのを思い出しちゃった。

 ちょっとここを離れていい?」


「だ、だめ! いかないで!」


相当怖いのか、男の子は、私の腕を力強く引っ張る。

綱引きをするかのような力強さだ。ちょっと痛い。


「おねがい……しますから」


必死にお願いをする男の子の姿が、かわいい。

かわいいので追い打ちをかけてみる。


「えー、でもぉ、仕事のこってるとぉ、

 あとでお姉ちゃん困っちゃうからぁ♪」


我ながらうざい。

ベストオブうざい。


「うう……うっ……」


男の子は泣き出してしまった。

やばい、ちょっとやりすぎた……。


私は、男の子の涙を拭きながら、優しく声をかける。


「冗談だよ。ごめんね。

 ここからいなくなることは、しないから」


「うう……ほんとう?」


「本当だよ♪ うふふ」


私は、男の子の頭を、猫を触るかのような調子で撫でた。


気を取り直して、ホラー映画を視聴し続ける。

ホラー映画は、さっきからずっと、ワンパターンだ。


殺人鬼が公衆電話をかけて、ターゲットを殺していくばかり。

そろそろ殺害数が二桁台に突入しただろう。

警察は早く公衆電話前に張り込め。

なぜか張り込まない。


しかし、さすがに男の子も飽きただろう。

こんなワンパターンな展開……。


「ぶるぶる……」


なんで震えてるんですかね。

さっきから同じような場面ばかり流れてるんですけど。


そして映画内では、殺人鬼は、またさらに、

公衆電話から電話をかけようとする。


と、そのときだった。


リンリン

リンリン


え?

もしかして、今、うちの電話が鳴ってる?


私は、リビングの外の廊下に置いてある、固定電話に視線を向けた。

鳴っている。間違いなく。


いったい誰が電話をしているのだろう?

まさか……殺人鬼?

んなわけないでしょ。


男の子は、震えを通り越して、固まっている。

目に涙を浮かべ、声が出ない。

本当の恐怖を感じると、もう震えることさえできなくなるのだ……。

私も正直ちょっと怖かった。


でも、こんなときも、私は、冗談を言うことを忘れない。


「あれー? こんなときに電話?

 うふふ。

 もしかして殺・人・鬼かもしれないねー?」



つづく

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