第13話 ホラー映画編3

「かせいふさん! 電話にでないで! 殺される!」


男の子は、必死になって、私の腕をつかむ。ひっぱる。

火事場の馬鹿力、と言えばいいのだろうか。

あまりの必死さによる、すごい力が出て、

私の腕がぴくりとも動かない。


普通に考えれば、殺人鬼ではないことは明白だ。

今きた電話は、ただの偶然に過ぎない。


でもタイミングが悪すぎた。

いま見ているホラー映画は、

「殺人鬼が電話をかけながら殺しまわる」という内容なのだから。


男の子が本気で信じてしまうのも無理はない。


電話に出ようとする私。

電話に出ないでと懇願する男の子。

お互いの引っ張り合いが続く。


そうこうしているうちに、電話は鳴りやんでしまった。

誰からだったのだろう? それを確認する術はない。


電話のことはさておき、男の子は大丈夫だろうか?

相当怖がっていたので、気になって様子を見る。


男の子は、ハァハァと息が荒い。顔も青い。

とっても怖かったのだろう。

お漏らしはしていないようだけど、

あとどこまで我慢できるのか、少し不安でもあり、楽しみでもある。


あ、でも、漏らしたらソファが汚れるから、

漏らすのはやめてもらったほうがいいですね……。


「大丈夫? 息が荒いよ」


「だい、じょう、ぶ……」


男の子は元気なさそうに、句点を多くして答える。

大丈夫には見えない。このまま息絶えてもおかしくはないと思う。


気を取り直して、ホラー映画の視聴を続ける。


キャッシュレス公衆電話を使うことにより、

小銭の心配をしないで済むようになった殺人鬼。

殺人回数をエスカレートさせていく。


殺人が行われるたび、男の子の体がびくっと反応する。

この男の子は、きょうだけで何年くらい寿命を縮めたのだろうか。


そして、男の子のほうは、私のことを、不安そうにチラチラ見る。


なにをそんなにチラチラ見てくるのだろうか?

私は気になって、声をかけてみる。


「ねぇ、さっきから私のことチラチラ見てるけどどうしたのかな?」


「……」


男の子は、顔を赤くして、黙ってしまった。

ん? なにかな?


「私の顔に何かついてるかな?」


無反応。

もしかして……。


「もしかして……私のうしろに何かいるのかな?」


うしろを向く。もちろん何もいない。

まさか男の子には「見えている」のだろうか。

もしそうだったらゾッとする。


男の子は、首をブルンブルンと横に振った。

なーんだ。何もいないのか。

さすがに霊感までは無いようだ。


ん? では、いったい何なのだろうか。

男の子は、何かを恥ずかしがっているのか、

なんにも言わない。


「どうしたの。

 お姉さんに教えてくれるかな?」


優しく声をかける。

が、男の子はおずおずとしている。


ええい、じれったい!

刑事みたいに尋問してくれるわ!


「ほら! はっきり言ってみて!」


すると、驚くべき言葉が返ってくるのだった。



つづく

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