第18話 雨のお迎え編2

学校が見えてきた! 大きくて白っぽい近代的な建物だ!

雨の中のお迎えは、もうすぐ終わるだろう。

学校さえ見えてくれば、あとは、私が男の子をお迎えするだけだ。


それで話は終わるはずだった。

けれども、世の中、うまくはいかないもの。

男の子は、私を素直に出迎えてはくれなかった。


そうなることも知らず、私は、のほほんと校門をくぐり、

校門前の警備員に挨拶を済ませたあと、そろそろと校内に入る。


校舎の壁は、さっきからの大雨でひたすら濡れており、

白っぽい壁が、灰色に塗りつぶされているように見えた。

校庭の樹は、葉っぱの一枚一枚から、雨のしずくが滴り落ちている。


学生たちは、傘をさしながら帰っている子も多い。

みんな、天気予報をしっかり見ていたのかな?

それとも学校に傘を置いていたのかな?


その疑問に答える者はいない。

みんな足早に帰っていくからだ。


ときおり、私のほうに視線を向ける学生もいたけれど、

すぐに視線をそらして、下校していく。

みんな早く帰りたいのだろう。


さて、男の子は、どこで待っていたんだっけ。

あ、思い出した。


学校側と連絡したときに、指定された場所があるので、

そちらに向かう。


あれ? ……いない。

煙のように消えたのだろうか。

どこへ行ったのだろう。

そう簡単にお迎えはさせてくれないようだ。


どこかに隠れているのかな?

周囲を確認する。

うーん。死角になりそうな場所は多い。

それに、私の慣れない「学校」という場所なので、

私のよくわからない物陰とか片隅とかいっぱいありそうだ。


おそらく簡単に、男の子の姿は、見つからないだろうなー。

うん。たぶんそう。


学校にもう1回連絡して、男の子に来てもらうようにしようか?

いや、やめておこう。


男の子をすぐ見つけてもらうより、学校を探検しながら、

男の子の姿を自分で探すほうがいい。そう思ったからだ。


いままでの男の子の気持ちを考えれば、

「みんなのいる前で、家政婦のお姉さんが僕を迎えにくる。

 なんだか恥ずかしい……」

という心理になって、逃げ回っている可能性はある。


これは、学校を舞台にしたある種のかくれんぼだ。

私は、その「かくれんぼ」をすることに、少しわくわくしていた。

見つけてやるぞ、待ってろよ、男の子くん!


校内はとても広い。

外部の人間である私にとっては、見慣れぬ外国に来たかのような気分になる。


さあ、どこから探そうか?

とりあえず、身近なところから探す。


壁の裏。

柱の裏。

茂みの中。


うーん。いない。

困ったなぁ。

ここら辺にはいないのかな?

待ち合わせ予定場所からすぐ近いところだし、あっさり見つかると思って、

どこか別の場所に行っている可能性は高い。


やっぱり、別の教室とかフロアとかに行ってしまったのだろうか。

さすがに屋上や屋外には隠れてないだろう。

雨がざあざあ降っている状況なのだし。


こうなったら、校内をくまなく散策するしかない。

ようし、意地でも見つけ出してやるぞい!

ぐっ!とコブシをにぎる。


私は、決心して、学校の探索を開始した。

一般教室、視聴覚室、理科室、家庭科室、体育館、プール室などなど、

男の子を探しまくった。それでも姿は無い。


男の子は見つからないけれども、他の学生たちは大勢いる。

そのどれもが、私に対して、不審者を見るような視線を向けてくる。


「あの人、誰? 不審者? 通報する?」(※学生たちの心の声)


うわーん! 通報されてたらどうしよう!


私は不審者ではない!

ただ外部からお迎えに来ただけなのだ。

でも信じてはもらえないだろうな……。はぁ。

早く男の子を見つけないと。どこだ、どこにいる!


執念の捜索を行った。


そして、とうとう、ついに、やっと、男の子の姿を見つけた。


男の子は、意外な場所に隠れていた。



つづく

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