第17話 雨のお迎え編1

私の家政婦業もだいぶ板についてきた。

朝からの家事をある程度終え、きょうも、洗濯物を取り込む時間になった。

洗濯ものを取り込もうとして、窓の外を眺めると、すでに太陽が消えていた。


朝はあんなに晴れていたのに、今はすっかりどんより曇り。

いまにも雨が降り出しそうな天気。

早く洗濯ものを取り込まなくちゃ!


ああ。そういえば。

男の子は、学校へ、傘も持たずに行ってしまった。

テレビに耳を傾けてみれば、ちょうど下校時間に、大雨の予報。


あちゃー。

これは迎えにいかないとダメかな?


傘もない男の子は、このままじゃ、ずぶ濡れで風邪をひいてしまう。


でも、それはそれで……ぐひひ。趣(おもむき)がある。


雨に濡れて、困り顔の男の子。

眉は八の字に曲がり、お洋服もズボンもぐしゃぐしゃに濡れて、

めそめそ泣いて、私の顔を上目遣いで見てくる。


想像すると興奮してしまい、背中をぞくそくとさせてしまった。

ああ……!! 良い!!

とても。とっても。もっと男の子を濡れさせたい!


そんな危ない感情はさておき、

私は、学校に電話連絡を入れ、男の子を迎えにいくことを話した。


学校に不審がられないか心配だったが、

男の子の両親が学校側にうまく手を回してくれたらしく、(後で知った)

お迎えはすんなり了承された。


私は、玄関横の傘置きから、傘をしゅっと抜くと、

玄関を出て、学校への道を歩き始めた。


男の子の通う学校……どんな場所なのだろう。

初めての場所だ。少しだけわくわくする。


玄関ドアを開け、空を見上げてみれば、

墨汁をそのままひっくり返したかのような曇り空。

もうすでに、頭や肩に、ぱらぱらと小雨がすがりついてくる。


あー、もう。やんなっちゃうなぁ。

こんなに曇っているし、大雨になりそうだし……。


学校の方向はどこだっただろうか?

あっち? こっち? どっち?


私は、道をおぼえるのが得意ではない。

スマホに映し出された地図を片手に歩く。


うん。

スマホ様に頼っていれば、間違いないだろう。

スマホさえあれば、なんでもできるのだし(過剰表現)

スマホパワー!


しかしさすがのスマホも、雨を防ぐことはできなかった。


ぱらぱらと降り出した小雨は、しだいに大きくなり、

傘をさしていないと、ずぶ濡れ必至の大雨と化す。


私は、すでに傘を開いていたので、大雨など意に介さない。


片手に傘。片手にスマホ。

これは歩きにくい。

手が全部ふさがっているからだ。

両手に花ならぬ、両手に荷物。

普通に動きにくい。


こんな普通に動きにくい、両手に荷物の状態で、

学校にたどりつけるのだろうか。

たどりつけず、迷ってしまったら、非常につらい。


大雨の中を迷子になるというのは、それだけで絶望的だ。

だが、そんな心配をする必要は無かったようだ。


歩いていくうちに、傘をかぶりながら下校していると思わしき学生の姿が、

チラホラと見えるようになった。

今、私の歩いている方向で、間違ってはいないようだ。


ほっと胸をなでおろす。

これで学生たちの姿が無かったら、とても絶望していたと思う。


よし。学校は近い。

男の子のお迎えも、そう苦労せずにいけるだろう。


そのときの私は、そう思っていた。

物事は、そうスムーズには運ばないのが、世の常だ……。



つづく

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