第16話 ホラー映画編終

私の足元を黒い何かが通過していった。

黒猫ではない。


それは、名状しがたい黒光り。


その黒光りは、私の足元をものすごい速さですり抜けると、物陰に隠れていった。

今のって……アレだよね?

ええっと。虫。素早くてカサカサしてるやつ。


名状しがたい黒光りの正体に気づいて、私は発狂した。

そして、思わず奇声をあげてしまった。


「ういいーhぱhdぱsんどあんsどぱんsぱhsd「!?」


なんで! こんなところに! あの黒光りが!

ひひいぃ! 不意打ちだよ!

やめて、突然!

きゃあああああああああ!


むぎゅっ。


気がつけば、私の体は、男の子の体に密着していた。


私は、あまりの恐怖からか、

ほぼ無意識に、近くにいる人間(男の子)に抱き着いてしまっていた。


「あっ」


それに気づいて、私は、男の子からぱっと離れる。

突然の奇声と抱きしめに、

男の子は、びっくりするやら、照れるやら、複雑な表情を見せていた。


「な、なに、かせいふさん……どしたの」


「ううん、ちょっと、怖いものを、みたから」


私は、どぎまぎして、答える。

虫で怖くなって抱き着いたとは、とても言えなかった。


「かせいふさんも、映画こわかったの?」


「うふふ……まぁ」


ホラー映画自体は怖くなかったので、笑ってごまかすことにした。


結局、ホラー映画視聴中に、男の子を抱き着かせるという目標は達成できなかった。

むしろ私が抱き着いてしまった。どうしてこうなった。

いやそれは、ホラー映画というか、虫が原因だし……。

くすん。悲しい。


そんなことより、もう映画どころではなくなった。


黒光りするアレを退治しないといけない。

どこかに隠れているはずだ。


さっきは不意打ちで驚いてしまったが、

奴を家の中でのさばらせるわけにはいかない。

警戒心をマックスにして、物陰を探る。


そんな私の様子を見た男の子は、不思議そうな目をしている。

たぶん「ホラー映画終わったのに、なんで警戒してるの」と言いたげな顔だった。


そういえば、この男の子は、黒光りするアレを見ても怖がらないのだろうか。

子供は意外とそういうの平気だよね。

でも、気弱な子だし、想像以上にびっくりするかもしれない。


私の好奇心がうずく。ちょっと見てみたくなってきた。

この男の子が、虫を見てどういう反応をするかを……。


「ねぇ、君、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……」


男の子に、虫を退治したいことを説明した。

素直に、うん、とうなずく。


「この近くにいるはずなんだけど、虫が見つからない……。

 どうやって退治しようかな」


私の言葉に、男の子は、奇想天外なアイデアを出してきた。


「かせいふさん。

 ゴキブリに電話をかければ退治できるんじゃないかな」


ホラー映画の影響をさっそく受ける男の子くんだった。

虫を退治するために公衆電話を探すつもりかっ!



ホラー映画編おわり(次回の編につづく)

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