第3話 おねしょ編1

まだまだ、男の子はよそよそしい。

さっき自己紹介を終えたのだけど、

打ち解けていない気がする。


男の子は、ずっとびくびくしている。

いつまでもこんなに緊張させるわけにはいかない。

と思うけど、簡単に策なんて思いつかない。


そしてきょう、

親がいない初めての夜を迎えようとしていた。


私は、男の子が心配になり、念のため声をかける。


「ひとりで寝れるかな? 大丈夫?」


「う、うん……」


男の子は、ベッドに横になったまま、弱弱しい返事をする。

うーん。

どう見ても大丈夫じゃない気がするけど。


「うふふ。一緒に寝ようか?

 お母さんみたいに、寝かしつけてあげる」


私はいたずらっぽい笑みを浮かべて、男の子に話しかける。


「い、いいよ! 僕ひとりで眠れるもん!」


男の子は、恥ずかしそうな表情を浮かべて、布を頭までかぶった。

気が弱いわりに、変なところで強情だなぁ。

まあ、そこがかわいいんだけどね。


ちょっといたずらしてみたくなる。


「ひとりで寝てると、幽霊が来るかもしれないよ」


「やだ! そんなのいない!」


「それはどうかなー?

 お姉さんにはね、ちょっとだけ見えるんだよ」


「見えるって……?」


「君のうしろに、何かいるね」


びくびくっ!

男の子は全身を震えさせ、青い顔でうしろを振り向く。

誰もいない。いるはずがない。ぜんぶ嘘なのだから。


「う、うう、うっ……。

 いないもん、幽霊なんて。

 ぐすっ……」


あっ。

また泣かせちゃった……。反省。


私は、近くのティッシュを抜き取ると、

涙で濡れた男の子の頬をふきふきした。

男の子の涙が、ティッシュにしみこんでいく。


「ごめんごめん。嘘だよ。

 君が驚く顔がかわいいから、つい、幽霊がいるなんて

 嘘をついちゃった。悪いお姉さんを許して」


謝罪の言葉を口にするけど、男の子は何も反応しなかった。

幽霊がいようがいまいが、ひとりで寝ることが怖かったんだと思う。

男の子は、ずっと震えていた。


震える男の子を、ひとり、部屋に置いておくのは気が引けたけど、

私もそろそろ眠くなってきたので、別の部屋で寝ることにした。


かわいそうだけど、一緒に寝たがらないし、仕方ないよね?

……何も起きなければいいけど。大丈夫かな?

嫌な予感がするよ。


そしてとうとう翌日、大事件が起きてしまった。


つづく

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