第7話 おねしょ編5

夜が来た。


きょうは、朝の約束どおり、

男の子と一緒の部屋にいることにした。


男の子は、落ち着かない様子だった。

ベッドの上でそわそわしている。


そうだよね。

知らない女の人が部屋の中にいたら、

そわそわしちゃうよね。


私は母親じゃないのだから。

昨日来たばかりの家政婦なのだから。


男の子は、緊張からか、一言も口を聞いてくれない。


夜21時。

もうそろそろ寝る時間だ。


さて寝る前に、トイレに行ってもらわないと。

またお漏らししちゃう。

私は、男の子に声をかける。


「もう寝る時間だねー。

 歯磨きしたし、次はおトイレに行こうか」


おトイレは寝る前に済ます。これ鉄則。


男の子は、少し困った顔で黙っていた。

怖いのだろうか。

ふふふ。怖がってる男の子かわいい。

いたずらしたくなる。


ここで「幽霊が出るかもよー!」と言って、

意地悪を言って泣かせてもいいのだけど、

またお漏らしされては困る。


ようし、ここは優しくいこう。


「おトイレ行くの怖いかな?

 お姉さんも一緒に行くから、大丈夫だよー。

 うふふ」


笑いながら、優しく声をかける。

そうすると、男の子は「うん」とだけ答える。


部屋を出て、電気をつけて、廊下を歩く。

トイレの前にたどりつく。


「じゃあ、お姉さんはここで待ってるから。

 してきていいよ」


「……」


男の子は、こちらを何度もちらちらと見る。

少しだけ顔が赤い。

あれ? どうしたのかな?


もしかして、一緒に入ってほしいのかな?

うふふ。

いたずら心がくすぐられる。


たぶん拒否られるだろうけど、言ってみよう。


「どうしたの? 怖いの?

 一緒に入る? うふふ」


私は冗談まじりで言った。

すると、男の子は、頬を赤らめて、私に伝えた。


「おしっこの音、聞かれるの嫌だから、

 そこで耳ふさいでて」


私はしばらく「えっ」と固まってしまった。

意外な言葉だったからだ。

聞かれるの……嫌なんだね。


「お姉さんは音なんて気にしないよ」


「僕は気にするの」


「じゃあ耳ふさいでおくから」


私は、両耳をふさぐポーズをとる。

まぁ、ふさいでいても、微妙に聞こえるかもしれないけどね。


男の子は、トイレのドアを閉めた。


少し気になることがある。

この年頃の男の子は、立ってするのだろうか? 座ってするのだろうか?


のぞいてたしかめてもよかったが、

傷つきそうなのでやめておく。


しばらくして、男の子が出てくる。

私の顔を見て、確認するように話しかける。


「耳ふさいでた?」

「ふさいでたよー」


ええ、しっかりふさいでましたとも。

ふさぎかたが甘くて、ちょっと聞こえてたかもしれないことは、

伝えないでおいた。


トイレのときの音は、男の子でも気にするんだなぁ。

わかるよ。私も、学校や職場のおトイレでは、聞こえるの嫌だったし。



つづく

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