ニセモノ家政婦、男の子にいたずらをする

alphaw

第1話 ニセモノ家政婦の誕生

失業した。


私は、少し前まで中小企業の女性社員として働いていた。

が、クビになってしまった。

大不況を理由とした人員整理。

たったそれだけの理由だった。


上司からは言われた。

「君は、まだ若いのだから、転職もやりやすいだろう?」

そういわれてあっさりクビだ。理不尽な。


私って、そんなに会社の戦力にならないのかな?

上司のほうが戦力にならなかった気がするけど。


別に今すぐ働きたいわけでもない。

再就職する気もなく、私は、沈んだ生活を送っていた。


畳の上には、アルコールの缶がいくつも転がり、

着る気のない洋服が何枚も散らかっていた。

ああ、片付けなきゃな……。


私ってば、いつもこうだ。少し気分が沈むと、何にも手が付けられない。

悲しいな。


そろそろ結婚も考える年齢なのに、こんな自堕落で、

仕事もなくて、恋人もいなくて、

いったいどうやって生きていけばいいのだろうか?


両親に連絡して、しばらく実家に帰ろうかな……。

そんな気持ちで、携帯電話をじっと見た。


ピリピリピリピリ♪


突然の着信音。

なに? いきなり……。


知らない電話番号だ。

出るのはやめておこうか?


……。

電話は鳴り続ける。


私は、突然として気まぐれを起こし、

電話に出てみることにした。

中年と思わしき女性の声がする。


「もしもし? 家政婦を頼みたいのですが」


家政婦?

聞きなれない言葉が突然でてきて、私は戸惑った。

間違い電話かもしれない。

私は、ただの失業者であり、家政婦ではない。


「あの、失礼ですが、私は家政婦では……」


「お願いします! 至急家政婦として手伝ってほしいんです!

 実は、どうしても、海外に行かなければならない用事があるのですが、

 子供がいて、無理なのです。

 無理は承知のうえ、ぜひお願いしたいのです!

 私の子供の世話をぜひあなたにお願いしたい!」


「え、ええ……?」


電話の先の、あまりの気迫に満ちた女性の声に、私は押されてしまい、

訂正の声をあげることすらできなかった。

そして、ダメ押しの発言が出る。


「報酬はいくらでも払います!

 なにとぞ……お願いします!」


ん? いま報酬はいくらでも払いますって言ったよね?

このとき、私は、家政婦を引き受けるつもりになっていた。

ニセ家政婦の誕生である。


ぶっちゃけ、子供ひとりの世話くらい、私にもできるっしょ。

子供できたことないけど。

楽観的な見通しをする性格は、いつまでも治りそうにない。


家政婦の仕事は、さっそく明日から。


私は、あわただしく準備を行うと、

地図を片手に、指定された邸宅の場所へと向かった。


私が世話するのは、どんな子供なのだろう?


男の子だと聞いていたけど、

親御さんは「ちょっと気が弱い」ということ以外、

あまり説明してくれなかった。


あまり手がかからないといいな……。

ううん、そんな甘いこと言ってどうするの。

むしろ、私に甘えさせるくらいにはしないとね。

頑張れ私!


私は、自分を元気づけながら、玄関ドアのチャイムを鳴らした。


つづく

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