第9話 おねしょ編7

男の子は、夜、トイレに行くのを怖がっている。

でもその一方で、ひとりで行けるようになりたい、

と願っていることがわかった。


私は、その願いをかなえたい。

本当は、ずっと男の子に頼ってもらってもいいかな?

と思っていたけども、


このままじゃ、ずっとずっと、私がトイレについていかないといけない。

もし私が、風邪や病気で倒れたら、男の子は、夜トイレに行けなくなってしまう。

そして、そのままお漏らしを……。


別にしてもいいけどね、お漏らし。

お漏らしした男の子の泣き顔を見るのは、

それはそれで、私的には最高なんだよね。


……まあ、お漏らしの跡を掃除しなきゃならないからね。

仕方ないね。お漏らしはやっぱダメ。


というわけで、私は、男の子がひとりでトイレに行けるように、

いろいろ考えた。


まずは、トイレまでの道を明るくすればいい。


部屋からトイレまでの電気をつける。夜中の間ずっと。

電気代さえ気にしなければOKだ。

電気代さえ気にしなければ(重要なので二回言いました)


実際、明るくすれば、怖さはいくらかやわらぐ。


あとは、トイレのすぐ近くに、何か音が出るものを設置する。


ラジオあたりがいいだろうか。

にぎやかなラジオ番組をじゃんじゃか鳴らす。


にぎやかなので、少しは怖さがやわらぐのだ。

電気代さえ気にしなければOKだ。

電気代さえ気にしなければ。


電気代を犠牲にしてこれらの策を実行したところ、

男の子のひとりトイレはいくらかできるようになった。やったね。

お漏らしストップ記録が何日も続いた。


が、まだまだ男の子は、なにやら緊張している様子だった。

いったい何がそんなに気になるのだろうか?


うーん。

トイレの怖さは克服できたのではなかったのか?

男の子の心は、まだまだわからないことばかりだ。


そのときふと、私は、買い物忘れがあることに気づいた。

いけない。お漏らしとトイレのことばかり考えていたら、

ある日用品を買い忘れていたのだ。


いまの時間は、夜の20時過ぎ。

だいぶ暗くなってしまった。


明日買えばいいじゃん。

いつもの私ならそう思うだろうけど、

きょうだけは違った。


なんとなくだが、

男の子も一緒に連れて行こうという気持ちになった。

私は、ちょっとした試練をしてみたかった。

男の子に、暗い夜道を歩かせて、勇気をつけさせてみたかった。


住宅地とはいえ、お店までは、それなりに暗い夜道がつづく。

それに、不審者だって、出ないわけではない。

低い確率ではあるが、不審人物の目撃情報も実際にある。


私ひとりで歩くよりは、男の子も一緒にいた方がいいかもしれない。

ちょっと声をかけてみるか。

たしか、男の子は今、リビングでテレビを見ているはずだ。


私は、男の子に呼びかける。


「ねぇ、買い物のお手伝いをしてほしいんだけど、いいかな?」



つづく

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