第二章 ババアと西念さん
第7話 ババアは他人を家に入れてはいけない
【紅のアポカリプス】「それって、オカンの事だろ?」
昨日、キス以外の仁奈がやった事を『やれやれだぜ』といったふうに説明すると、同じギルドの四天王の一人とも言える紅のアポカリプスがそんな事を言ってきた。
【漆黒のファルネーゼ】「違う。隣に住んでいる女だ」
【紅のアポカリプス】「ははっ、そういう事にしたいんだな。ファルはそんなオカンの襲撃を毎日受けて難儀だな。同情するぜ」
【無間人形オメガ】「だよなぁ、ファルさん! 母親ってうぜーよなぁ。うぜぇ、うぜぇ!」
【漆黒のファルネーゼ】「……お、おう」
隣に住む女子高生がほぼ毎日僕の家を訪ねてくるなんて誰も信じてくれないのか。
実話なのに。
やっぱり打ち切りになったりしそうな漫画のような真実味が薄い話だからそう思われてしまうのかな。
他の四天王にも同じ事を言われかねないし、もうギルドでババアの事を言うのを止めよう。
僕が廃プレイしているのは『ファイナル・クエスト・ユニーバス・オンライン』通称『FQUO』というオンラインRPGだ。
二十以上ものサーバーがあり、プレイ人口は10万人以上と言われている人気のMMORPGだ。
そのサーバーの中でも人口が一番多いと言われている『サードストライク』という名前のサーバーの『たてがみエンジェルズ』というけったいな名前のギルドに僕は所属している。
全サーバーで十数本しか存在しないと言われるレア武器を持つ人達が複数所属していて、全てのサーバーの中でも最強のギルドではないかと噂されているほどなんだ。
僕も一応伝説級の武器『三十二式エクスカリバー』を所持している。
もしプレイヤーにランキングがつけられるとしたら、ベスト100内に入っていてもおかしくはないプレイヤーだ。
そんなんだから、ゲームデータを消されたり、パソコンを壊されたりしたら大変なのだ。
【漆黒のファルネーゼ】「疲れたから落ちるわ。乙!」
僕はログアウトした後、パソコンの前から離れて、ベッドにダイブした。
「オカン……ねえ?」
僕は天井を見上げながら、そう呟いた。
確かにあのババアは、母親のような行動をする。
隣に住んでいる事もあって僕の家庭事情などをよく知っているから、擬似的な母親にでもなっているつもりなのかな?
そうだとすると、キスをしてきた事に対する理由が不十分な気がする。
母親が息子にキスをするものだろうか?
いや、する家庭もあるだろう。
けれども、擬似的な母親がそんな事をするとは思えない。
仁奈の家庭が子供にキスをするのが普通だったりすれば話は別だけど、そんな習慣はなかったはずだからさらに意味が分からない。
「……解せぬ、あのババアは」
ベッドから這い出し、机の上に置いてあったスマホを手に取る。
通知は当然何もない。
時刻は午後三時を過ぎていた。
そろそろババアが襲来する時間帯に突入する。
今日は眠たいし、呼び鈴が鳴っても出ないようにしよう。
そうすれば、回避できるはずだ。
「……さて、おやすみなさい」
僕自身にそう言って、再びベッドに身体を横たえて目を閉じた。
『カチャ』
耳が研ぎ澄まされていたからだろうか。
玄関のドアの鍵が開けられた音が耳の中に飛び込んできた。
「……はて?」
母親が帰ってきたのか?
それはあり得ないな。
帰宅はいつも午後九時過ぎだ。
そうなると誰だ?
父親か?
それもあり得ない。
そうなると誰なので?
「暦ちゃん! 大変! 大変!!」
玄関のドアが勢いよく開けられる男に続いて、仁奈の声が家中にとどろく。
「はっ?!」
想定外の出来事が起こって、僕は飛び起きた。
なんであのババアが玄関のドアを開けたんだ?!
当然鍵がかかっていたはずなんだけど。
ドタドタと階段を駆け上げる足音が段々と僕の部屋へと近づいてくる。
ん?
ババア一人の足音じゃないような気がする。
複数?
いや、二人?
誰か連れてきたのか、あのババアは!!
「見て! 見て! 見て、 暦ちゃん!!」
自室のドアが勢いよくバンと開け放たれると、ババアが僕の断りもなく興奮した様子で部屋に入ってきた。
いや、ババアだけじゃない。
誰かを引っ張ってきているんだんだけど、誰だ?
見覚えがあるような……ないような……。
いや、あるか。
どこだったっけ?
「暦ちゃんの家の前でうろちょろしていたからきっとストーカーさんだよ! やったね、暦ちゃん!! 暦ちゃんにもストーカーがいたんだね!!」
「ババア!! ストーカーを家に連れ込むバカがどこにいるんだよ!!」
え?!
僕にストーカー?!
そんなの初耳なんだけど!!
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