第11話 ババアはウィンクしなくてもいい



「家にデートなんてする場所はないでしょ?」


 僕は冷静をよそいながら、そう反論する。


 一軒家とはいえ、家は意外と狭い。


 玄関から入ってすぐのところに両親が使っていた八畳の部屋があって、その先にはリビングルーム、くつろげるようにと広めのバスルームがある。


 一階にあるのは、それ以外には半畳ほどの押入れとトイレくらいなものだ。


 二階は僕の部屋の他には空き部屋が二つと、トイレがある程度だ。


 どちらも四畳半ほどで、誰かが来た時や子供がもう一人できたら、といった感じで用意したものの、今ではただの物置となっていたりする。


 そんな場所でどうデートするというのか。


 僕には全然想像できないし、こんな家でやりたくもない。


「うんしょっと」


 そんな掛け声と共に頭が重圧から解放された。


 どうやら僕の上にのせていた胸をようやくどけたようだ。


 あれ?


 途中から胸の重みが気にならなくなっていたけど、そんなものなのかな。


 背後でババアが動いている気配があり、すぐに僕の正面に回り込んできて、西念さんの隣にぺこんと座った。


「暦ちゃん、明日はデートだからね。ちゃんと準備しておいてね」


「は? 明日かよ! 西念さんだって、そんなことを唐突に決められて困って……」


 僕がそう言って西念さんに同意を求めようとすると、


「あああああ、明日は土曜日ですし、だ、大丈夫です」


 西念さんはかしこまった様子でそう答えていた。


 今からもう緊張しているのかちょっと表情が硬い。


「え?」


 僕とのデートなんて拒絶するんじゃないかと思っていただけに意外だった。


 というか、僕なんかとデートなんてしてもいいの?


 ババアはともかくとして、西念さんと友達になったその日に、デートすることになるとは想定の斜め上の展開になっているし。


 これはいいことなのか、悪いことなのか。


 どっちなんだろう?


「西念さん、水着は必ず持ってきてね。おうちでデートには必需品なんだよ」


 屈託のない笑顔で隣にいる西念さんに笑いかけた。


「は、はい! わ、わかりました」


 少なからず戸惑いを見せつつも、西念さんはぶんぶんと首を縦に振った。


「暦ちゃん、明日はデートだから清潔にしておいてね。お姉さんとの約束だぞ」


 ババアは片眼をつむって、ウィンクをしてみせて、右手を上げるなり、親指を立てて見せた。


 しかも、舌まで見せちゃったりして……。


 えっと、僕の意向は無視ですか。


 無視なんでしょうけど、これでいいのかな。


 いいワケないんだけど、もうどうにでもなれ!!




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