第6話 引きこもりの僕(中1)に隣の家のババア(17歳JK)が絡んできてウザい



「ぎゃあああああああああああああっ!! ババアにキスされた!!」


 僕は一分くらいは硬直していたかもしれない。


 突然キス……ただし、頬にされたりなんかしたら、そりゃ当然驚くに決まっている。


 ようやく正気を取り戻した僕は思わず叫んでいた。


「……あれ? 嫌だった?」


 予想外の反応をしたものだから当惑しきった様子で仁奈が僕の事をまじまじと見つめていた。


「嫌とかそういう以前の問題だよ、ババア! 人の頬に勝手にキスをするのは淫行条例違反に決まっている!! 僕はまだ中1だから絶対にこんな行為が許されるはずはないんだ! あ、セクハラかもしれない! ババアのくせに同意も得ないでするとは酷いよ! 僕の純情を踏みにじって!!」


 キスされた事で気が動転してしまって、浮かんで来る言葉を後先考えずにババアに投げつけていた。


「お姉さん、犯罪者なのかな?」


 仁奈はシュンとしてしまって、身体を丸めて小さくなってしまった。


 どうやら反省しているようだ。


「……僕は怒っているんじゃなくて、びっくりしたんだ」


 頬とはいえ、突然キスされるのに慣れてはいない。


 というか、キスなんてした事がない。


 ようは『初物』である。


 それを予告もなしに奪われるのは誰だって驚くし、焦るものだ。


「……ごめんなさい」


 仁奈はぺこりと頭を下げて、謝罪の意を態度で表してきた。


「だから、今度キスをするなら僕に同意を求めて欲しい」


 同意があれば、合法だったよね?


 それに事前に言ってもらえれば、心構えができるというものだ。


「分かった。お姉さん、ちゃんと手順は踏むね。だから、暦ちゃん、右手を出して」


「ん?」


 ババアが何をしたいのか想像できなかったけれども、僕は言われるまま、右手を差し出した。


 仁奈はその手に自分の手を添えて、


「お姉さんはこれから約束のキスを暦ちゃんの手の甲にします。暦ちゃんに断りもなくキスしない事をここに誓います」


 僕の返答を待たずに、仁奈は目を閉じて、僕の手の甲にそっとキスをした。


 唇のほのかな温かみが手の甲から全身へと伝ってきて、僕は得も言われぬむずむずさを味わった。


 ええと、これって誓いのキスとかいう奴かな?


 台詞が全然違うけど、それに近いキスだよね?


 というか、僕が許可したワケじゃないのにキスしているし、ババアは。


「……分かった」


 宣言までされた上、手の甲にキスをしてきた仁奈を責めるのは、男の子として度量が狭いのではないか。


 ここは太平洋のように広い心をもってして許してしんぜよう。


「ありがとう、暦ちゃん」


 唇を離してから、仁奈ははにかんだような笑みを僕に投げかけてきた。


「で、僕の唇はいつ奪うの?」


「う~ん」


 僕の手を握ったまま、仁奈はもう片方の手を口元に持っていき、人差し指を唇に添えながらしばらく考え込んで、


「……暦ちゃんがお姉さんをデートに連れ出して、それで、雰囲気の良い場所で暦ちゃんがして欲しいって言ったら、してあげてもいいかな?」


 パッと顔を輝かせて、それでも、ちょっとだけ気恥ずかしさを口元に残したまま、そんな事を言ってきた。


「僕が引きこもりを止めたらって事なのかな?」


「それはちょっと違うよ。暦ちゃんは引きこもりのままでもいいけど、勇気を出して、お姉さんをデートに誘ってくれたらそのご褒美がキスって事かな?」


 やはり唇を重ねる方のキスは恥ずかしようで、その言葉を僕へと向けている最中、耳が真っ赤になったりしていた。


「そうは言われても、僕はババアとデートなんてする気が起きないし」


 僕の初デートは同級生か下級生のどちらかと決めている。


 年上のババアなどもっての他だ。


「暦ちゃんはお姉さんが嫌いなの?」


「いや、嫌いではない。僕の領域にずかずか踏み込んできてウザい」


 そう……。


 そういう事なのだ。


 引きこもりの僕(中1)に隣の家のババア(17歳JK)が絡んできてウザいのだ。




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