第27話 ババアは強要しなくてもいい
「……あれ? なんでお姉さんは暦ちゃんの胸の中にいるの? もしかして、お姉さんの恋人になる覚悟ができたのかな?!」
ようやく目を覚ましたババアはそんな寝言を言ってのけた。
「寝言は寝ている間に言うといいんじゃないかな?」
若干僕は嫌みを言ってみた。
寝ている間、僕は苦しみと愉悦に苛まれて、変な汗を全身にかいていたのだから、これくらいは言ってもいいよね?
「お姉さん、何をしていたんだっけ?」
ようやく身体を僕から離して、首を左右に傾げながら、人差し指を唇に当てて思案顔を見せた。
「……ここはどこ?」
ババアの声で起こされたのか、西念さんも目を覚まして、目を手でこすっている。
というか、記憶喪失なのかな。西念さんは。
「二人とも覚えてないの? 映画を見ていたんだよ。たぶん、ババアがタイトルを間違えて借りてきた奴を。名作と一文字違いかもしれない長駄作を」
映画を見ようと言ったのはこの二人で、プロジェクターまで用意していたじゃないか。
それを忘れてしまうほど熟睡できたつまらない映画だったのかな?
事実、つまらなくて、僕も途中から見ていなかったけど。
「……そういえばそうだったよね? どうして忘れてしまったのかな?」
その理由を探るようにしてババアが考える像の仕草をしながら記憶を辿り始めたようだった。
「映画がつまらなすぎて、記憶から排除しただけじゃないかな?」
「……そっか。なら、深く考える必要なんてないよね」
仁奈の記憶から消去される映画。
ついでに、僕も記憶から消去しておこう。
どうせ思い出す事もないだろうし。
「……さて」
僕は二人がけのソファーから立ち上がった。
「映画を見終わったことにして、と。これで今日のデートは終わりかな? お疲れ様でした!」
これで今日のデートは終わりだよね?
まだ続きがあるとしても、僕的にはもう体力が厳しいから遠慮したいし。
「暦ちゃん、まだ終わりじゃないよ。お姉さん、まだ暦ちゃんの水着姿を見てないし」
僕はその一言で固まった。
あの水着を着ろっていうの?
ちょっとでも中身が動いたら、ポロリしちゃうような水着を。
僕にそんな水着を着せて、何がしたいの?
「あんな水着、僕は着られないよ」
さすがにあれだけは御免被りたい。
野外だったら、露出したとか言われて警察の厄介になりそうだし。
「暦ちゃんが着たら可愛いと思ったのに着てくれないの?」
「可愛いも何も変なものを僕に着させようとしないでよ」
「変じゃないよ? お姉さんね、暦ちゃんの腰のくびれと細い脚線が強調されて良いと思ったんだけど」
「何その女子の体型みたいだから選びましたみたいな言い方。僕は男だよ?」
「筋肉隆々でもないし、無駄なお肉がついているワケでもないから、暦ちゃんは女子力のある身体だと思うんだけど、違うのかな?」
「女子力なんてないよ。僕は男の子だし」
もしかして、僕って女の子みたいだと思われていて、それでこのババアに可愛がられているとか?
つまり、僕と百合百合したいみたいな?
それで恋人だとか何だとか言っているのかな?
僕に構っている理由がそうだとするのならば、ここはこの水着を着て、僕が男の子だと分からせればいいのかもしれない。
そうしたら、僕の事を構わなくなるかもしれない。
「……ババアがそこまで言うなら着てくるよ。ちょっと待っててね」
この水着を着るだけでババアとの関係が断たれるのであれば願ったり叶ったりだ。
僕は急いで自室へと向かうことにした。
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