第9話 ババアは僕の恋人にならなくていい
僕の頭の上に何か重たいものが乗せられた。
ババアこと仁奈が何かをしたのだと思うのだけど、どうせ僕の頭に寄りかかっているのだろう。
払いのけように手を挙げると、ふにっとも、ふにゃっとも違う、ふもっという感触が指先に伝わった。
「ふも?」
しかも、肉肉しさもあり、ババアの身体に触れたのとは違うような気さえしてくる。
「……もう、暦ちゃんはお姉さんのおっぱいに興味津々なんだから」
僕にのしかかっているであろうババアの甘い吐息が僕の顔にかかったような気がした。
「……おっぱい?」
恐る恐るもう一度指先で触れてみる。
「やんっ……」
甘ったるいババアの声が上から降り注いだ。
「あっ……」
目の前にいて、僕を見ていた女の子の顔があっと言う間に真っ赤になった。
「恋人って……そうやって……ち、ちちくりあうもの……なんですね……」
見るに堪えないからなのか、正視できないからなのか、女の子がさっと僕から目を反らした。
しかも、真っ赤だった顔がさらに濃く深い真紅に染まっていた。
「ち、ち、違うって!!」
僕達が付き合っているとは本気で思っている?!
ババアが僕を『自分の物』発言したのが悪いって。
違うのに。
絶対に違うのに!
「僕は誰のものでないよ! こんなババアのものでもないし!! 僕は恋人とか友達が一切いない、ただの引きこもりだよ!!」
僕は思わず叫んでしまったけど、叫んだ後、深海よりも深く後悔した。
僕は何を言っているんだろう。
ひとりぼっちの引きこもりだと宣言してしまったじゃないか。
「そ、そうじゃ、そうじゃ……なくて……」
僕はぶんぶんと頭を横に振る。
頭を振る度に、何か柔らかいものを揺らし続けていたが気のせいだと言い聞かせた。
否定したい。
僕が一人だなんて。
それが事実であったとしても。
「恋人も、友達もいないのでしたら……」
目の前の女の子が真紅さはそのままで僕を正視する。
「……私が友達になります」
風にさえかき消されそうな、か細い声だった。
「……え?」
「私が友達になります。きっと覚えていないと思いますけど、私の名前は
顔は相変わらず真っ赤だけど、はにかんだ笑みを僕へと向けてくる。
僕みたいな引きこもりにそんな笑顔を向けてくれるなんて、良い人だな、この子は。
「なら、お姉さんが暦ちゃんの恋人になってあげる」
まだおっぱいを僕の頭の上にのせたままであろうババアの声が聞こえてくる。
「いや、ババアは恋人にならなくていい。というか、僕の頭を胸の置き場にしないで欲しい」
仁奈は何を言い出しているんだ、昨日に引き続いて。
昨日はキスしてきたり、今日は恋人になる宣言だとか。
僕は試されているのかな?
どこまで僕の事がからかえるかって。
でも、僕をからかっても何の特にもならないよね、ババアには。
なら、なんでなんだろう?
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