第21話:エクストリーム・リンカネーション

「ファイアーボール!」

「カルマ!」

 この日も僕は練習場で、ジョセフの火の玉を食い止め、跳ね返さんとしていた。しかし、昨日のことがウソのように、火の玉は再び勢いをつけ、僕の体にぶち当たった。


 さんざんこれにやられまくるうちに、通常レベルの炎の攻撃技を食らうことを恐れている場合じゃなくなっていた。だがこの痛みに慣れたらウィザードとしての僕が死ぬと、ドラゴン・エクスター・アクアがメッセージを発している気がした。だから僕はすぐに立ち上がる。


「ファイアーグレネード!」

 ジョセフは無慈悲に、炎の弾丸を束で放ってきた。

「カルマ!」

 僕は狼狽しながらも、咄嗟に弾丸を魔力で食い止めた。しかし、何発かが再び動き出し、僕の体にえぐるようにぶつかってしまった。緩んだ魔力のせいで残りの弾丸全ても僕に命中し、ダメージとなった。僕はたまらずフィールドをのたうち回る。


「もう終わりか?」

 ジョセフが僕を挑発する。

「まだやる!」

 僕は意地で立ち上がり言い返した。


「ファイアーグレネード!」

「カルマ!」

 僕は炎の弾丸を全て食い止めた。弾丸との見えない力による攻防が続く。僕は負けたくない一心で魔法に思いをこめ続けた。


 炎の弾丸が、青く変わっていく。全ての弾丸が、ゆらめきを失い、水玉に変わった。次の瞬間、10個ほどあった水玉が突然変異のようにひとつにまとまり、隕石レベルの水の塊に変わった。あの日よりも一回り大きく巨大化したまま、ジョセフの体に突っ込んでいく。


 水しぶきではなく、爆発の煙がフィールドを包んだ。煙は嵐のように、あの日よりも激しく吹き荒れた。煙が晴れるとジョセフは昇天していた。

 シュールズベリー・チーフコーチがジョセフに歩み寄る。特訓を見ていた水属性のウィザードたちの何人かも野次馬のようにジョセフに近寄る。

 チーフコーチは僕に向かって、両腕で「×」のサインを作った。どういうことかと思い、僕もチーフコーチに駆け寄る。


「コイツを医務室まで運んでやれ」

 チーフコーチは周囲のウィザードに指示をした。ほかのコーチや生徒がジョセフに応急処置を施すべく動き回る。

 その間にチーフコーチは何も言わず僕の肩を持ち、ジョセフから離れたところに連れて行った。


「どういうことですか?」

「ジョセフとのスパーリングは今を以って終わりだ。さすがにこれ以上やったら、アイツの体が持たないからな」

 その言葉で、僕は自分の魔法のスキルが、これまでとは違うんだと実感した。


「今の技の名前を教えてやろう。エクストリーム・リンカネーションだ」

 どうやらそれが、相手の魔法を自分の属性の物質に変え、巨大化して跳ね返す攻撃の名前のようだ。

「エクストリーム・リンカネーション?」

「そうだ。常識的にはありえない形で、魔法物質が転生している。ウィザードにとって魔法はもうひとつの命のようなものだ。その命がリンカーネイションを起こし、相手の脅威となる。それがエクストリーム・リンカネーションだよ」

「僕の技って、そんなにすごいんですか?」


「ああ、そのとおりだ」

 チーフコーチがわずかな微笑みを浮かべた。しかし、すぐに真顔に戻る。

「だが、お前はまだ技をものにしきれていない。不安定なままだ。本番でエドワードに通用する保証はない。失敗すれば大きな隙になり、彼にまんまと潰されてしまうぞ。そうなってもお前はシェイマーになる」


「僕、恥さらしなんかになりません!」

「でも、それを約束できない相手がいるそうだな?」

「何のことですか?」

「とぼけるんじゃないよ。自分がよくわかっているだろう?」

「もしかして……」

「ああ、その娘だよ」

 僕は美玲の姿を思い浮かべ、彼女にますます申し訳なくなった。


 ジョセフが非常事態であるにも関わらず、アリスはソフィアと、練習場の端っこで魔法を打ち合っていた。

「彼女に何か話すことは?」

 チーフコーチの問いかけに、僕は考え込んだ。

「……行かせてください」


 僕は彼女のもとへ走り出した。次の瞬間、アリスとソフィアの近くの壁が、予兆もなく粉々に砕け、僕は驚きあまり尻餅をついた。迫りくる砂埃のあまり、僕は思わず地に伏せた。けたたましい音と煙が収まって顔を上げると、忌まわしきエドワードが仁王立ちしていた。隣では、青色おかっぱ頭で、ちょっとけだるい目をした幼めの少女が不敵に笑っていた。彼女こそが、パトリシア。


 望まれなさすぎる来訪に、僕は戦慄した。

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