第24話:炎の(!?)猛特訓
「ここだ」
チーフコーチに連れてこられたのは、魔法学園にある「導きの室 (むろ) 」だった。
「この部屋は、人を乗せてテレポートさせる箱の役割も果たす。自身が思った場所に行けるのだ」
「要するに、エピフィア国じゃない場所にも行けるってことですか?」
僕は何気なくチーフコーチに問いかけた。
「まさか逃げる気かな?」
チーフコーチがよからぬ形で真に受けたみたいだ。
「そんな、逃げはしないです。聞いてみただけです」
「さあ、乗るぞ」
チーフコーチに導かれ、僕は導きの室に入った。中は真っ暗だ。チーフコーチが静かに扉を閉める。彼がカンテラを持っていたおかげで完全な真っ暗闇は免れているが、それでも暗い場所にいると、根拠のない不安が僕の心を乱す。
「今みたいに複数の人が導きの室に入ったらどうなるかわかるか?」
唐突な問いかけに僕は答えに迷った。
「このなかで偉い方が思った場所が目的地となる。つまりは私だ」
「僕には、ドラゴン・エクスター・アクアがありますよ」
「基準はあくまでも人だぞ。さあ、導きの室よ。我々をあの場所へと送っていただきたい」
室内に強烈な縦揺れが起きた。大地の下でモンスターが暴れているか、誰かが凄まじい必殺技を相手に命中させたときみたいな衝撃が、30秒ぐらい続いた。僕は驚きと恐怖のあまり伏せた。
縦揺れが収まったあと、体の芯がふわっと浮かび上がるような感触がした。導きの室がどこかを飛んでいると思った。
しばらくして、導きの室の下で草っぽい何かが踏みしめられる音がした。同時に浮き上がっていた感触も断ち切られた。
「着いたな」
チーフコーチの案内で僕は外に出た。その先には廃墟らしきものが待ち構えていた。屋根の縁の部分が、れんがのように趣のある赤みを残しているが、一部が灰に変わっている。何より、その建物から放たれるオーラが薄気味悪い。ひどい災いでもあったみたいだ。
「カルティアスシティの外れにある宗教塔だよ。10年前に落雷に遭い、5階まであったものは焼けおちてしまったがね」
シュールズベリー・チーフコーチが、あたかも常識を語るような冷静な口調で僕にそう伝えた。
「ここに行って何をするんですか」
「決まっているだろう。ここに出没するモンスターを狩り、お前のスキルを高めるのさ」
「えっ?」
僕はうろたえた。
「君が言い出したんだろう。自分をもっと強くしてくれと。ためらっている暇はないよ」
チーフコーチはドライにそう言い放った。僕は塔の右手前に立った看板を読む。
「『この先、危ないから立ち入り禁止。何かあっても責任は負いかねます』」
「ブルー・ブレイク・ビーム!」
チーフコーチが青い光線を看板に当て、粉々に砕いてしまった。看板は根元を残して跡形も残らなくなった。
「早く行け」
「はい」
チーフコーチのシリアスな口調に迫られ、僕は塔に足を踏み入れた。
中に入ると早速、鬼火のような化け物を二体相手にすることになった。周囲でも同じ鬼火がうろちょろしていた。
僕は飛びかかってくるそいつらをかわしながら、ウォーターグレネード一発ずつで倒した。
これに反応したほかの鬼火が次々と襲いかかり、僕は次々と水の攻撃魔法で撃退していく。
チーフコーチは親指を下に向ける。
「なにかイケないことしました?」
「違うよ、ここには地下もある。狩り続けなければお前に残るのは努力を怠った後悔しかなくなるぞ」
「そんなのイヤです」
「なら地下へ行け。真っ暗でもここにカンテラがあるし、そうじゃなくても、今と同じウィルフレイムが周囲を照らしているから狙いやすいだろう」
僕はちょっとためらいながらも、おそるおそる地下に足を踏み入れた。
1階よりも多くの鬼火軍団との大乱闘になった。ウォーターグレネード、 ジェットストリームを次々と決めていく。曲がり角の向こうから、一際大きな鬼火がやってきた。チーフコーチ曰く、名前はルイフレイムだ。鬼火が正に鬼の形相で僕に体当たりを図った。これを合図に壮絶な攻防が始まった。
ルイフレイムの体当たりを2度受け、凄まじい熱さを味わう羽目になったが、ここでくたばるわけにはいかないと立ち上がった。ルイフレイムのさらなる体当たりをアクアフェザーでかわし、上からウォーターグレネードを放った。
鬼火にもまれて戦闘能力が上がった僕は、グレネードを一度に20発放てるようになっていた。すべてを受けたルイフレームが咆哮を挙げると、僕はすべての力と思いをドラゴン・エクスター・アクアにこめ、ボルドー・キャノンを命中させた。ルイフレームの体が収縮し、跡形もなく消えた。
翌日もチーフコーチに導きの室に連れられると、今度はどこかわからない荒野にきて、双頭の恐竜と目が遭ってしまった。身長だけで僕の3倍はあった。チーフコーチ曰く、その名はツインキオレイドス。
双頭の恐竜の突進をホイーリング・アクア・ベールでしのいだが、ベールを解いた瞬間、双頭の片方が頭をしならせ、僕の体を打ち倒した。
踏み潰されそうになったが、転がって回避し、横からパラドロップを発射した。体が倒れて動かなくなってもこちらに吠えるツインキオレイドスに、トドメのボルドー・キャノンを見舞った。
次の日は、火山のふもとでマグマに死んだ目と鼻と口がついた化け物10体ぐらいをやっつけ、さらに次の日は僕たちの頭に近い程度の高さを漂っては、炎の雨を降らす、ファーストーマーなるモンスターが魔法学園の近くの原っぱに出現したので、僕が1人で追い払った。
翌日から2日間は炎のウィザードと20人掛けというムチャブリを受けた。20人の炎のウィザードが代わる代わる僕の前に立ちはだかり、無慈悲な炎の攻撃を浴びせていく。
ここまで来ると、炎の熱さを感じることに対する恐怖など感じていられなくなった。慣れたわけじゃないが、本能がどんな状況でも戦いをやめるなと言っていたからだ。
僕は水の魔法攻撃を駆使し、1人目から19人目まですべて勝ち抜いた。20人目にジョセフが立ちはだかる。疲れの傷でうずく体でアイツと戦うのは過酷も過酷だった。
やつは当然のようにウィル・オー・コブラを繰り出す。コブラの火の粉攻撃をホイーリング・アクア・ベールで防ごうとしたが、疲れで体をさっと動かせず、ベールができあがる前に火の粉が僕の体に当たってしまった。僕は力なくフィールドに倒れる。
「どうした、終わりか? もしかしたら、やっぱりオレがエドワードと戦った方がいいんじゃね?」
元々傲慢なジョセフだったが、この挑発は許せなくて僕は体を震わせながら立ち上がった。
「エドワードと、戦うのは、僕だ!」
「ワールフレイム!」
「カルマ!」
僕はコブラから吐き出された炎の竜巻をせき止めた。竜巻は青く変わり、性質が炎から水と化すと、巨大化した。
「何だ!?」
ジョセフが狼狽する。
「エクストリーム・リンカネーション!」
僕は巨大な水の竜巻にジョセフを巻き込んだ。ジョセフの悲鳴がこだまするなか、竜巻が砂埃で周囲の視界をさえぎる。練習場の屋根が突き破られる音がした。数秒後に練習場の外で何やらデカいものが落ちる衝撃音が走った。気がつけば、砂埃も竜巻も消えていた。
僕の威力に、周囲のウィザードたちが息を呑んだ。
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