第11話:やはりこんな試練の与え方は間違っている
「レディー、ファイト!」
「ウィル・オー・ニトラ!」
ジョセフがいきなり杖の先から炎でできたコブラのような化け物を飛び出させてきた。
「やめろおおおおおっ!」
僕は思わず絶叫しながら炎のコブラから逃げ回る。
「逃がすなニトラ! ファイアーボールだ!」
ニトラの口からいくつもの火の玉が吐き出され、僕の背中に容赦なく命中していく。僕はいとも簡単に地面に倒れ込んだ。
「やっぱりヘタレを超えたヘタレか。あの誓約書は何だったんだよ!」
ジョセフの罵倒に次いで、コブラが雄叫びをあげる。そもそも、なんで炎でコブラの頭の形ができるんだ。炎だけでも恐ろしいのに、それが人に脅威を与える生き物の形を成している地点で、こっちは口から魂が出そうなぐらい怖いのに。
「もうさっさと決めちゃおうか、それとも、もうちょっと遊んじゃおうかな~」
ジョセフのからかいの声が腹立たしい。炎は怖い。でもそのままやられっ放しになる屈辱を許すわけにはいかない。僕は自分の胸を叩き、左足、右足と地面に突き立て、勢いをつけながらジョセフに向き直った。ドラゴン・エクスター・アクアが、僕に対して「このままじゃダメだ、アンドリューよ、立て、とにかくジョセフと向き合え」と語りかけているようだった。
「ワールフレイムだ!」
炎のコブラが放ったのは、燃え盛る渦だった。僕はすぐさま横に転がってかわす。
「逃がすな!」
ジョセフは容赦なく、コブラに二発目を撃たせた。
「ホイーリング・アクア・ベール!」
僕は再び、水のベールを起こし、炎の渦を受け止めた。杖を持つ両腕に力を込め、攻撃を跳ね返さんとした。水のベールと炎の渦が、力比べをしている。膠着状態かと思われた瞬間、二つともはじけ飛んで消えた。ジョセフは一旦息を整えた。僕は、攻めた。
「ジェットストリーム!」
僕はすかさずジョセフとの間合いを詰めながら水の光線を放ち、やつの体のど真ん中を撃ち抜いた。ジョセフは重力に操られるようにフィールドを転がった。
「おのれ……!」
「もう、忌まわしい炎なんか撃たせないぞ! アグネット!」
僕はプラズマを帯びた水の光線を放つ。立ち上がろうとしていたジョセフを再びフィールドに転ばせた。やつをフィールドを区切る白線のギリギリまで追い詰めた。あと一発でフィールドアウトでやつを負かせる!?
「ウォーターグレネード!」
僕は満を持して、冷たい弾丸の群れを放った。
「カルマ!」
ジョセフが謎の言葉を叫びながら杖をかざすと、弾丸の動きが止まる。次の瞬間、弾丸を形作っていた水が、全て炎に変わった。その瞬間、僕は現実の時が止まったように感じた。でも、弾丸は止まらない。ほぼ全てが僕の体を抉るようにぶち当たった。
「熱い、痛い……」
ぶっ飛んだ僕は、焼けるような痛みを体の所々に感じていた。この間までの古傷がまた疼いているようだった。それでも僕は立ち上がる。立ち上がらねばならなかった。
「トドメ行きま~す」
ジョセフは嘲るような声で決め技を宣言しながら、僕まで2マイティスぐらいのところまで歩み寄った。ジョセフが決め技を宣言した。
「パイロ・オン!」
ジョセフが杖を天に掲げると、先端から火花が咲き乱れた。やつは杖を片手に、僕に猟奇的な笑みを見せつけていた。
ジョセフの杖の先の火花が、ゆっくりと力を強めている。フィールドを焼き尽くす隕石が作られているようだった。怖い、怖すぎる、やつの顔も、勢いを強める火花も。僕の人生を焼き尽くす地獄の使者がそこにいるみたいだった。
「アハハハハ、アハハハハ、これは報いだ。オレたち炎族を馬鹿にした呪いだ、末代まで払い続ける代償だ。受け止め……」
「パラドロップ!」
僕は水滴を放った。自らの悲劇を繰り返さないために。いや、我が身を我が人生を、この手で守るために。
水滴はまっすぐジョセフの足元を捉えた。
「そのショボすぎる一撃は何だ? 悪あがきのつもりか? お前はもう、何をしたって無駄だ。何をしたって……」
そこまで言いかけたところで、ジョセフが崩れ落ちた。やつの手から離れた杖。その先には、僕の生きる世界の脅威となる火花を放つコア。ジョセフの体の上に落ちていく。
コアがジョセフの体の上で、壮絶な爆音を上げた。フィールドどころか、練習場全体が、砂煙に包まれた。
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