第16話:大きな一歩
砂埃が晴れる。
僕の視界には、ジョセフが見える。
僕を見上げて、呆然とするジョセフの顔が見える。
僕は空を飛んでいた。
「何だと……」
「アクアフェザーだよ」
僕の背中からは、妖精が棲む川のように清らかな青い翼が生えていた。フェイタル・コア・ブラストがぶつかる寸前で、僕は自身に翼が生える魔法をかけ、空中へ飛び立つことで直撃を避けたのだ。
「 ウォーターグレネード!」
立ち尽くすジョセフに、僕は水の弾丸を乱射した。空中から浴びせられる弾丸を、ジョセフは蜂の巣にされるように受けまくった。
「クソ、もう一度、コイツだ! ウィル・オー・ニトラ!」
ジョセフは再び燃え盛るコブラを繰り出した。コブラが頭を伸ばし、僕に噛み付こうとした。しかし僕は後退しながらも冷静に高度を上げた。コブラの頭は届かない。
「ワールフレイム!」
ジョセフの命令でコブラが炎の渦を繰り出す。一瞬触れるだけで焼けてしまいそうな強烈な炎だったが、僕は右へ避けた。
「ジェットストリーム!」
隙のできたコブラの首筋に、水鉄砲を当てた。ドラゴン・エクスター・アクアからとめどなく噴き出す水を受け、ウィル・オー・ニトラはみるみる弱っていく。蒸気のような煙を上げながら、炎のコブラは消え去った。
「ウソだろ!」
ジョセフは何もなくなった杖の先を見ながら、再び呆然とした。
「我に力を与えたまえ、炎をいましめる聖水の剛力を! ボルドー・キャノン!」
僕は満を持して、荒れ狂う水の波導を伝説の杖から放った。ジョセフは眼前に迫る危機に怯えたまま、ボルドー・キャノンに呑み込まれた。
ボルドー・キャノンはジョセフの姿を包み込んだまま、フィールドの外まで飛び出し、壁に激しくぶつかった。はじけた水の中から、力尽きてへたり込んだジョセフの姿が現れた。
「ジョセフ、戦闘不能! アンドリューの、勝利!?」
「ジョセフ、また負けてんのかよ!」
「しかも今度は真っ向勝負で負けやがって!」
「やっぱりアンドリューってすごいのか!?」
フィールドの周囲で見守っていた炎属性のウィザードたちが、負けたジョセフをなじったり、僕に驚きの声を上げたりしていた。まだ実感がないが、どうやら僕はジョセフに2連勝したようだ。
「アンドリュー」
シュールズベリー・チーフコーチが僕のもとへ駆け寄り、僕の左腕を挙げて称えた。
「君の勝ちだ」
「僕の勝ちですか?」
「その通りだ、やつを見てみろ」
ジョセフはなおも練習場の壁際に背中をくっつけながら、両足を投げ出し、Lの字に倒れこんでいた。
「元々ジョセフはお前の強化を手伝うことになっていた。エドワードと戦う日までと決めていたが、やつは2連敗したから、その後も付き合ってもらおうか」
シュールズベリー・チーフコーチは僕にそう告げると、ジョセフの方へ歩いて行った。ジョセフに群がるウィザードたちを制しつつ、彼に何やら言葉をかけているようだった。
「よかった」
またドラゴン・エクスター・アクアから声が聞こえた。
「今、『よかった』って言いました?」
「そう告げた。お前が踏み出した大きな一歩を喜ぼう」
「ありがとう……ございます」
僕は伝説の杖に一礼した。
「だがこれで調子に乗るなんて時期尚早もいいところだぞ。ここからは、今のバトル以上に大切な時間だ。さあ、進め、どんどん一歩ずつ進んでいけ。そしてエドワードを、ぶっ倒せ。私からは以上だ。あとはシュールズベリー・チーフコーチなり、ジョセフ、美玲、アリスらにいろいろ教えてもらうがいい」
アクアがさらに僕を激励する。なんか、杖に励まされてさらに自信が湧いてきた。僕は巨大なものを乗り越えようとしているんだと実感した。
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