第28話: 実は美玲は……
「立ちなさい、そして勝ちなさい、エドワードをぶっ潰しなさい!」
再びの叫び声に振り向くと、やはりそこにいたのは美玲だった。
「アンタ、このまま終わっていいの? このまま恥さらしとして生きていいの? ていうか、このままエドワードにやられた時点で、十分恥さらしだと思うけどね」
美玲は僕を冷たく罵倒した。
「嫌だ、終わりたくない、でも……!」
「でもどうしたのよ? もしかしてエドワードが怖すぎて勝てないっていうの? やっぱり炎が怖すぎて勝てないっていうの?」
美玲のあまりの迫力に、僕は押し黙った。
「立ちなさい、そしてやっつけなさい。アンドリュー、何でもいいから立って! これはチーフコーチからの伝言よ!」
僕は左足を前に踏み出して立ち上がろうとするが、足がすくんで動けなくなった。
「そして、私からのお願いよ! 立って、そしてあんなやつぶっ潰して!」
僕は両足に力をこめたが、恐怖ですぐに腰が砕けてしまった。四つん這いになっていると、涙が流れてきた。悔しいからか? 怖いからか? それとも、戦いたいという思いで感情が高ぶっているからか?
「アンタ、入院している私に言ったよね? もう炎もエドワードも怖くないって、エドワードなんかやっつけてやるって。それ本気なんでしょ。私があんな誓約書を学園にばらまいたからじゃなくて、自分で自分にそう誓ったんでしょ」
そうだ。美玲の誓約書に突き動かされたのも事実だが、あの日、病室で美玲にエドワードに勝つと宣言したのは、紛れもなく、僕の意思で決めたことだった。
思い出した。本当に強いウィザードは、一度決めた誓いを破ったりしない。少なくとも今の僕は、その意味がよくわかる。心が、全身がそれを分かっていた。
だから僕は……。
「うがああああああああああっ!」
魂の底から叫びながら、立ち上がった。場内から歓声が上がる。
「余計な口出しをしやがって。これ反則だろ!」
エドワードが憤慨しながら審判に反則を訴える。
「第三者の介入による反則は、魔法や身体的接触があったときのみだ。声をかけたぐらいじゃ反則にはならない」
「チッ」
そのとき、僕の上空を、怪しい影が通過した。パトリシアがアクアフェザーで美玲に飛んでいったのだ。
「余計なことしないでよ、いいところだったのに!」
「何よ、エドワードの邪魔したわけじゃないからいいでしょ」
「うるさい! J2O!」
パトリシアが美玲に放った魔法は、美玲の頭以外の全身をしゃぼん玉のような球体で包むものだった。
「やっぱり、アンタ、あのチキンくんのこと好きなんだ~」
パトリシアの意味深な言葉で、僕の心拍数が急激に上昇した。もしかして、美玲……
「ミズ・ソーレ!」
パトリシアが杖のコアを青く灯すと、身動きの取れない美玲を投げ飛ばした。しゃぼん玉姿のまま、美玲は僕の頭上を越え、エドワードの前に着地した。あれだけの衝撃を受けながら、しゃぼん玉が割れずに数回バウンドした。美玲の後ろ姿は、エドワードに怯えていた。
「J2Oってね、好きな人がいる相手にだけ通じちゃう呪いの攻撃なんだよね~。要するに、イチャイチャできないように相手の体をホステージボールに封じ込めちゃうの」
「美玲、本当なのか?」
「仕方ないわ……私、アンドリューのこと、好きになっちゃったみたい」
後ろを向いたままの美玲の衝撃告白に、僕は度肝を抜かれた。観衆も騒然としている。
「ふざけた茶番を見せやがって。神聖なコロシアムを汚した罰だ。美玲、特別にお前から処刑してやるよ! そうだな、トラウマになっているであろうあれを出して、今度はお前の心ごと焼き切ってやる!」
まさか……!
「ビッグバン・スネーク!」
悪夢のように燃え盛る蛇が、エドワードの杖から飛び出した。
「そこの女をやっちまえ」
「嫌……!」
「やめろおおおおおおおおおお!」
僕は本能のままに美玲の前へ走り出した。
「ぐああああああああああっ!」
ビッグバン・スネークが、非情にも僕の体に巻きついた。本当だ。体の隅から隅まで、骨の髄まで焼けてしまうぐらいの熱量が伝わってきた。両手も巻き込まれ、身動きが取れない! かろうじて杖の先は、ヘビの体から上に出ていたが。
「最高のシチュエーションだ。このままフィニッシュを決めたらどうなるかな?」
「ふざけるな、エドワード。僕は美玲に、みんなに勝つと誓ったんだ! こんなのに負けてたまるか!」
灼熱の苦しみよりも、エドワードへの怒りと、この戦いには死んでも負けたくない思いが勝っていた。
「ビッグバン・スネークでも、口先までは縛れないわけか。好きに言ってな。お前のウィザード人生のカウントダウンを見せてやるよ」
エドワードは不敵な笑みでうそぶくと、ゆっくりと杖を天に掲げた。
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