第10話:身の毛もよだつ恐怖!

 僕は、本当に、炎属性のウィザードが集まる練習場へ連れ出された。練習場に感じるオーラは、僕を焼き尽くす業火のように熱かった。

 そうかと思えば、僕の気配を感じたウィザードたちが、一斉に練習を止めて僕を睨む。チーフコーチが呼び止める間もなかった。


 炎属性のウィザードたちは無言で僕たちににじり寄る。誓約書の効果は、望まれないほど絶大だった。

「お前、火ぃなめたらどうなるかわかってるだろうな」

「ウザいからさっさと焼き尽くしちゃいましょう。だって、ガイザー一の足手まといなんだし」


 やつらは口々に僕を罵倒したり、悪口を言うもんだから、練習場がキナ臭い騒々しさに支配された。

「は~い、静かに!」

 チーフコーチの威厳ある一声で、あたりはまさに水を打ったかのように静まった。しかし、ウィザードたちの人混みをかき分け、一人の男子が口火を切る。


「マジックバトル部の水属性のチーフコーチ、シュールズベリー先生ですよね?」

「ジョセフ……名字は何だ?」

 拍子抜けするようなチーフコーチの台詞に、ジョセフは思わずずっこける素振りを見せた。しかしすぐに体勢を立て直し、あの日の階段で見せた横柄な表情を取り戻す。


「ジョセフ・ノースランドです。こいつがいるだけで、ガイザー魔法学園の価値ガタ落ちじゃないですか。ドラゴン・エクスター・アクアもそんなふうに思いきり無駄にしてよ。そうかと思ったら急にオレたちに変な紙でケンカ売りやがって。こんなゴミクズさっさと放校処分にしたらどうですか?」


「放校?」

「もしくはオレが直々にこの魔法でアンドリューを身を焼き払うか」

「待て、それはオレの仕事だ!」

「私もよ!」

 炎属性が我先を争いだし、囲まれた僕はもみくちゃにされた。


「おい、ケンカ売ったんだからかかってこいよ」

「責任取れ!」

「黙らんか!」

 チーフコーチの、竜の怒りのような一喝である。凄まじすぎて僕の耳はキーンと鳴り放題なんですけど。


「属性は違えど、私はチーフコーチだ。目上に従えないのなら、君たちの方を放校処分にしてやってもいいんだよ?」

 チーフコーチが炎属性のウィザードたちにさらなる脅しをかける。

「ジョセフ、お前、今アンドリューと1対1で戦えるか」

「面白いですねえ」

 ジョセフの不敵な笑みから醸し出されるおぞましいオーラが、僕の身を震わせる。


「その代わり、お前には賭けてもらうものがあるぞ」

「何だよ」

「お前、負けたら水属性のお手伝い係になれ」

「何でオレが?」


「アンドリューは炎を恐れている。そのアンドリューを、お前が恐れているとでも?」

「そんなバカな話がありますか。やりますよ。やってやりますよ。こんなやつ、5秒で終わりにしてやりますよ」

「いい心意気だ」

「ちょっと待ってください、やっぱりいきなり僕をあんな化け物と戦わせるんですか!?」


 僕は自分を置いて転がっていく話が理解できなかった。

「お前をここへ連れてきた理由、それ以外にあると思う?」

 僕は何も言い返せなかった。やっぱり、僕に炎を克服してもらうために、ジョセフとガチで戦わせる気だ。荒療治も程々にしてくれよ。なんかせめて最初は、ロウソクを持ち運ぶぐらいからだんだん慣れさせてくれてもいいだろう。このくだりだけでどんだけプロセス飛ばしてるの。それでもシュールズベリー先生はチーフコーチですか。


「他のやつらは下がりなさい」

 チーフコーチの命令で、炎属性のウィザードたちがバラバラに動き始めた。ジョセフは僕に顔をグッと近づけて睨みを利かせてから、フィールドへ移動した。

「さあ、お前も行くのだ」

「ええ……」

 僕はこれから起きることに、身の毛もよだつ恐怖を感じながらフィールドへ歩いた。

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