第7話:伝説の杖の書
夕食後、僕と美玲とソフィアは図書館でドラゴン・エクスター・アクアに関する書物を手分けして探していた。
「あっ、まさにこれじゃない?」
美玲がお目当ての本を見つけたようだ。その本の表紙には『The Legend of Four Rods ~The Forces Killed the Dragon』というタイトルが書かれていた。
「『4本の杖の伝説~竜殺しの力』……間違いなさそう」
「念のため、目次を確かめてみましょうか」
アリスに促され、美玲がページを開く。
「6つの章に大きく分かれてる。第1章が4本の竜殺しの杖に関する共通の解説、その後の4章が四台元素にちなんだそれぞれの杖の紹介、最後の章がまとめね。ちなみにアクアは第3章よ」
僕は美玲が眺める本を覗き見た。
「ちょっと、変態」
「何がだよ」
「とりあえず、これ借りるから。中身は部屋に帰ってのお楽しみよ」
まるで母親のような言いぐさの美玲に、僕は戸惑った。
「よおし、カウンター行くわよ~」
美玲は気楽に歩き出した。僕も仕方なく、アリスとともについていく。
「ふむふむ、ふむふむ」
部屋のベッドの上で、美玲を中心に僕たちは本を食い入るように見つめていた。
「ドラゴン・エクスター・アクアは、水の女神マルンディーンが天よりエピフィア国へ授けし魔法の杖だったんだって」
「なるほど」
「今から1500年前、フェヴルムという怪竜がエピフィア国の東西南北の海上に神出鬼没し、船に破滅の炎を浴びせて沈めていた。やがてフェヴルムは、陸地にも現れ、街や森、大地を焼き尽くし、国民を恐怖のどん底に陥れていた。これを嘆いた水の女神マルンディーンが地上に降臨し、当時の勇者であったアブラハム・サイモンに特別な杖『アクア』を託し、アブラハムはその杖でフェヴルムを倒した。竜殺しとなった杖は「ドラゴン・エクスター・アクア」と名づけられた。アブラハムは隣国カルディストとの魔法戦争で致命傷を負い命を落とし、それ以来ドラゴン・エクスター・アクアは森に封印された」
これが、ドラゴン・エクスター・アクアの成り立ちだ。わずかな文でも歴史の重みが感じられる。僕は、ものすごい杖の持ち主になっていたんだ。
「ここからはドラゴン・エクスター・アクアに関する詳細を成り立ちから語ろう。そもそもこの杖はどんなきっかけて作られたのか? ドラゴン・エクスター・アクアは……」
「ちょっと待ってください。その章を最初から最後まで読み通すつもりですか?」
「そうだよ、これ、800ページもあるんだよ?」
アリスと僕が心配して美玲に声をかける。
「私、その本を読んだことがありますが、計算してみたら、ドラゴン・エクスター・アクアの章だけで、192ページありました」
「今、192ページ読むだけでも、疲れちゃうよ」
「もう、本当に根性がないんだから~、パラパラパラパラはしょりながら読んで、大事なところを読み逃したらどうするの」
「いや、ドラゴン・エクスター・アクアを持っていても強くなれない理由を知りたいだけだよ。余計なところは本当に読む必要ないだろう」
「ただめんどくさいだけでしょ」
美玲の図星な言葉が、僕の背中に深く突き刺さる。
「彼の言うとおりじゃないですけど、本を読むときは目的を一定に絞って、それにふさわしい場所をピンポイントで読むのがいいと思います」
「そうなの?」
「ええ、知りたいことを1秒でも早く知るに越したことはありませんから」
「分かった」
「僕の言うことは聞けなくて、アリスの言うことなら聞くのかよ」
「アリスの意見の方が、なんかしっくりきたのよね」
美玲はさらっと言いながら、早めのスピードでページを動かし始めた。
「アンドリューくん、ドラゴン・エクスター・アクアに関して知りたいことを言ってみてください」
アリスが真顔で僕に促す。
「どうして僕なんかが、ドラゴン・エクスター・アクアを手に入れられたのか。それとどうして、僕って、火が怖くて弱いまんまなのかを知りたい」
「それはアンタが伝説の杖の存在に甘えきってるからじゃないの」
美玲は情報を探す努力を完全に放棄しているのか。さっきよりも彼女の言葉が大きな矢のように、僕の背中を鋭く抉っている。腹の方まで先が飛び出してないかなと思っちゃうぐらいだ。
「美玲さん、ドラゴン・エクスター・アクアを手に入れられる者の条件と、その主のスキルや資質との関連を述べた内容を探してくれますか」
アリスが再び丁寧な言葉で美玲に頼む。
「がってんしょうち~」
「だから何でアリスには素直になれるんだよ」
僕はいてもたってもいられず美玲にツッコんだ。
10分ぐらい経ったときである。
「これとかどう?」
美玲があるページを指差し、僕とアリスの注目を集めた。
「『ドラゴン・エクスター・アクアを握った者には、一定の共通項が認められる』」
僕は美玲が指差した部分を音読した。
「戦いの神オリアスにより、その魂に運命の光を宿された者である。選ばれた者は『アライヴ・スター』と言われ、伝説の杖を手にする資格を持つ」
「アンタ、自分が『アライヴ・スター』だって思う兆候あった? ないよね」
「いや、勝手に決めつけんなよ」
「じゃあ、本当に自分を『アライヴ・スター』だって思ったことはある?」
「ないよ」
僕はあっさりと事実を認めてしまった。
「そもそもさ、これオリアスの誤審じゃないの?」
美玲は面倒臭そうな顔をしながら、ベッドの上で頬杖をついた。
「まさか、神様に限ってそんな間違いはないでしょう。ましてや、運命の光を、そんなルーズに扱う神様なんて、そもそもあるんですか?」
アリスは嫌な現実を避けるような畏怖の表情で語った。
「でもさ、オリアスがマジでアンドリューを選んだとしてもよ。アンドリュー、ヘタレ過ぎるのよ? 炎が怖いっていうウィザードとして致命的な弱点を持ってるのよ? 普通選ばないって」
「アンドリューの中には、アンドリュー本人も知らない可能性があるってことじゃないんですか? ましてや私たち他人じゃ到底知ることができないみたいな」
「そんな理屈あるかな~?」
美玲は頬杖さえ崩し、ページにアゴをもたげた。
「続きを読んでください。お願いします。そうやって伝説の書を枕みたいに扱わないでください。バチが当たりますよ」
「何よ。バチならどうぞ当ててくださいって感じ。所詮これだって、内容は聖書みたいに壮大な感じかもしれないけど、所詮紙とインクでひたすら書きまくったもんでしょ」
美玲はそう言いながら、ページに頭を乗せている。いよいよ本を枕代わりにしている。
「神聖な内容ですから、そこらの本とは価値が違います。同じ図書館で借りた本でも、それだけは丁寧に扱わねばならぬものですよ。図書館から借りた本である時点で丁寧に扱う義務が生じるものですが」
「神聖な内容だったら、もっと読みやすいようにページ数を節約してほしいわ。人にちゃんと読んでほしいぐらいすごい内容なのわかるけど、このページ数は何なの? 読むのすっごい苦痛なんですけど。学校の教科書でもここまで分厚いのあったっけ? 紙とインクの無駄、環境にルーズすぎることこの上ないわ」
美玲は伝説の杖を語った本の悪口を、勢い任せにアリスに浴びせていた。
そのとき、窓の外で自然が呻く声が聞こえた。僕は気になってそっちに注目した。次の瞬間、窓の外が、まるで神が怒ったかのように激しい閃光に染まった。僕は思わずハッとして固まった。
何の前触れもなく、窓が木っ端みじんに砕けた。
「きゃああああああああああっ!」
部屋を真っ二つに切り裂くような音と、空気を激しく震わせるような美玲の悲鳴が交錯した。
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