第18話:Flaming Beasts
ソイツが吐き出す炎は、カエルの火の粉とは比べ物にならないほど恐ろしかった。
「うわあああああ!」
僕は炎の波を恐れながら、横に転がって逃げた。
「ただのクソガキのドラゴンだぞ」
ジョセフが指摘するのは、3歳児ぐらいの大きさをした、幼いドラゴンだ。それにしては吐き出す炎の威力はおっかない。これでも充分、僕は立ち向かえている方だ。
「こんな赤ちゃんドラゴンに何を恐れている? 早く攻撃せんか」
シュールズベリー・チーフコーチの静かなゲキが、もう一つの圧力として僕の背中を押した。僕はもう一度、インファントドラゴンの前に立つ。
インファントドラゴンが再び炎を吐き出した。
「ホイーリング・アクア・ベール!」
僕はすぐさま水のベールで防御する。
「チッ、また盾から入るのかよ、チキンが」
ジョセフの露骨な悪口が聞こえた。戦いに集中せねばと必死になった。
「ウォーター・グレネード!」
ベールが解けた瞬間に攻撃技を放った。面食らったドラゴンの胴体を、水弾丸の数々が撃ち抜いた。ドラゴンが後ろにもんどりうって倒れる。僕は戦闘の構えを崩さず、警戒した。ドラゴンがやはり起き上がってくる。
「ジェットストリーム!」
上半身を起こしたドラゴンに、間髪入れず放った。水光線がドラゴンのアゴを撃ち抜き、地面に倒れさせた。
「ちょっとごめんね~」
ジョセフが僕を追い越し、ドラゴンとの距離はたもちながら顔を覗き込む。
「完全に昇天してる。こりゃ戦闘不能だな」
ジョセフが、僕を勝者と認めてくれた。なんかそれだけで嬉しくなった。
「インファントドラゴンが体勢を整える前に、一気に攻め込む作戦か。アンドリューも賢明になったもんだ」
チーフコーチはそう解説している間に、僕はジョセフに耳をつままれ、さらに森の奥へ向かわされていた。
「おい、私を置いて勝手に行くんじゃない!」
チーフコーチが慌てて僕たちを追った。
その後も僕は、黄色い火の粉を吐くネズミ「スマウス」10匹ぐらいを一人で相手した。そいつらをウォーター・グレネード乱射で蹴散らしたら、僕と同じぐらいの身長で横幅も貫禄溢れる、マグマのように真っ赤な親ネズミ「マグマウス」が現れた。
マグマウスの体当たりを受けたことで、皮膚が焦げるような熱さを感じた。ホイーリング・アクア・ベールを作り出しても、マグマウスは突き破り、僕の体を吹っ飛ばしてしまう。
「ウォーターグレネード!」
僕はいつものように水の弾丸を放った。マグマウスに全て命中した。命中するたびに、やつのいたるところから煙が上がる。しかし煙が晴れると、マグマウスは雄叫びをあげた。
「効いてない!?」
痛みよりも怒りが増した様子のマグマウスが、どぎつい形相でこちらに歩み寄ってくる。
「凍らせろ……」
「えっ?」
ドラゴン・エクスター・アクアから、静かながら重々しい声が聞こえた。
「凍らせろ……」
さっきよりもちょっと大きな声で、アクアは言った。僕は言葉の意味を理解した。
「COアイス!」
僕は白銀のオーロラのような波動をマグマウスに打ち込んだ。やつは接近中のため、至近距離でこれを受けた。その結果、あっという間に全身が凍りついた。
「倒した?」
「マグマウスの体温知ってる? まだまだわからないよ」
ジョセフがヤジっぽく言い放つ。マグマウスの体が小刻みに揺れる。僕は警戒して、後ずさりした。ジョセフの言葉通りなのか、マグマウスを包んでいた氷が一瞬にしてガラスのように弾けた。マグマウスのおどろおどろしい雄叫びがあたりに響き渡る。
「どうすりゃいいんだ」
僕は思わず、伝説の杖を胸の前に抱え、体を震わせた。そのときである。
マグマウスは雄叫びとは違う、苦しそうな声で叫んだ。体を見ると、紅に染まった全身のところどころが、岩のように変わり、覇気を失っていっている。
「やつはマグマ。氷で冷やされ固まっちまった」
ドラゴン・エクスター・アクアが、マグマウスの異変の理由を明かした。
石化したマグマウスは、魂が果てたように、力なく倒れ込んだ。ジョセフが駆け寄る。今度は警戒するまでもないとばかりに、間近でマグマウスを覗き込んだ。
「アンドリュー、すげえな」
「ありがとう」
僕は条件反射的に感謝の言葉を述べた。
「やればできるじゃねえか」
ジョセフが僕をたたえながら歩み寄る。そしてまた耳を摘む。
「えっ、もしかしてまた……?」
「今日はこの辺にしよう」
「そうですか?」
ジョセフが不満げにチーフコーチに反応した。
「魔法エネルギーを回復する時間が必要だよ。あとソイツの体力も。それも含めてR.D.Pだからな」
「わかりました」
ジョセフは渋々って感じで受け入れた。そのとき、僕たちの周りを、巨大なハエが飛んだ。さっきのマグマウスぐらいの大きさだから僕たちは二人揃って驚いた。
「コイツを潰せ!」
「えっ!?」
「エクストラな特訓だと思って、潰せ!」
ジョセフはそう叫びながら、巨大なハエから逃げ回った。
「そんなこと言ったって!」
「お前が苦手なのは炎であって、虫じゃないだろ!」
巨大なハエが、ジョセフに追いつき、背中に止まった。
「ぎゃああああああああああ! オレの人生は絶望だああああああああああっ!」
ジョセフは絶叫しながら、地面に伏せた。
「ウォーターグレネード!」
水の連弾をぶち当てると、巨大なハエは慌てるように飛び去った。びしょ濡れのジョセフは、虫の息のようだった。
「大丈夫!?」
「ああ……神様……おゆる……しを」
ジョセフは意識が定まっていないのか。僕は慌てて彼の介抱に向かった。
「しっかりして。君までびしょ濡れにしてごめん。こうするしかなかった」
「そんなこと、どうでもいいよ。まあ、とりあえず、サンキューだよ」
「言わないこっちゃない」
シュールズベリー・チーフコーチが、呆れたような顔でジョセフの様子を見た。
「私は知っている。コイツの弱点は虫だ」
「そうなんですか!?」
僕は驚いてコーチに言葉を返した。
「お前が炎をひどく恐れるように、コイツは虫を恐れている」
「ジョセフ」
「悪い……ガブリエルが、迎えに……来た……か」
「そいつに肩を貸してやれ」
チーフコーチに言われるがまま、僕はジョセフを起こした。彼から森の奥へ連れ込まれたもんだから、帰りに余計な体力を使う羽目になった。でも、彼がそうしたおかげで、僕が着実に恐怖という名の壁を乗り越えていけているのも事実だから、このときだけは恨まないことにした。
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