壁で隔てられた王都とスラム。「緋色の王様」というキーワードをきっかけにして、少年少女たちの「願い」の物語が幕を開ける。
人々の願いは、大きな力の源。果たして彼らは何を願い、物語にどんな結末をもたらすのか。
この作品の良い点を挙げていけば、きりがないほどです。無駄のない構成、うまく配置された伏線、色の巧みな使い方、個性的で魅力的なキャラクター。
その中でも特にこの「緋色の王様」という物語を輝かせているのは、生き生きとしたキャラクターたちです。全員にきちんと血が通っていて、その思いや願いが交錯する様が、そのまま美しい物語となっていきます。
ダークな世界観ですが、描かれるテーマはとても美しい。物語終盤にて緋色の王様がつぶやくあるセリフが、とても象徴的で素敵でした。この作品のテーマ、そして彼の内に起こった変化を端的に示しています。
適度な描写の読みやすい文章に導かれ、どんどん先を読みたくなるのも魅力です。
読み終えてからもまたこの世界に戻ってきたくなるような、素敵な作品でした。
願いが力になる世界に生きる子供たちと緋色の王様を中心に物語は展開します。
基本的にはシリアスな内容なのですが、その中に作者様ならではのユーモアも感じることが出来ます。最後のほうのネズミのシーンとか(笑)
キャラクタや世界観などの設定がしっかり作りこまれていて、読んでいて人物や状況の把握が容易に出来、とても読みやすかったです。
それと幕間の入れ方が絶妙です。幕間までのあらすじを入れてくださってるんですが、それが物語の一部のような書き方になっていて、物語の続きを読むようにすっと入ってくる! 上手いやり方だなと思いました。ですので幕間にも注目してみて欲しいです。幕間があるおかげで、物語をより理解して読み進められるので、読了後の満足感が増したと思います。
スラムと王都、姉と弟、幼馴染同士、母と息子などなど、この物語には沢山の壁が存在します。後半で語られる身勝手な人々の願いは、まるで現実世界で起こっている様々な分断の根幹を言い当てられているようで、ゾクッとしました。私たちの世界は何処に進むべきか、今見えにくくなっています。そんな私たちの世界にも、この作品は1つの答えを示してくれているように、私は感じました。
その答えは……是非、ご自身で読んで確認してみてください。
読了後のレビューとなります。
短編として拝読させて頂いた時、【赤】という鮮明な色への恐怖を感じ取りました。【赤】という色からここまで広がっていく世界がある。驚嘆と同時に感じた深い恐怖。
長編として続きが読めると知った時の、恐怖を越えたワクワクした気持ち。物語を読み進めていく中、多くの絶望や恐怖を感じながら登場人物ひとりひとりに共感し、明かされていく事実に驚き続けました。
短編を読み終えた頃は、何度か繰り返し読むといくつもの違う見方が出来るのかな?という印象がありました。長編となった物語を読み進めながら、その印象は鮮やかな【色】の描写から来ているのかな?と思いました。
そうなのです、この物語には色彩ではない【色】が広がっているのです。
絶望・恐怖・苦しみ・驚嘆・登場人物達の叫びと想い。散りばめられた鮮やかな色が導いていく未来にあるものは何か。
是非見届けてほしいです。
スラム街で育った少年たちと謎の多い《緋色の王様》にまつわる話です。
願いを叶える力が魔法になるファンタジーの世界観がいいです。
元は短編だったものが15万字となって生まれ変わりました。ハラハラする展開、謎の数々が無駄なく、最後まで飽きさせません。
作者様の小説は、キャラクター重視であり、本作でもそれは遺憾なく発揮されています。キャラの名前から特徴まで全てに意味はあります。
《》の使い方が上手いです。《王様》の謎がより深まって、良い不穏な雰囲気を作り出してます。
後半の怒涛の伏線回収・展開は読む手が止まらなくなるはず。
コンテスト一次通過常連の作者様なので、読みやすいです。
「人々の願い」が魔法の力になる世界。王都と壁で隔てられたスラムに暮らす緋色の王様は、子どもたちを集めて「神様」にある願い事をしようとします。
その裏にあるのは、彼の過去にまつわる悲しい愛と憎しみの記憶でした――。
とてもキャラクターを大切にされていて、その心を丁寧に描くことに定評のある作家様です。愛すべきキャラクターたちの心と心の交差する模様、そこに生まれる悲喜交々のドラマが大変魅力的です。
もっと簡単な言葉で言えば、「キャラとそのキャラ同士の関係性にめっちゃ萌える!」です。
多くのウェブ小説の読者様が、ファンタジー小説に求めるものではないでしょうか。魅力的なキャラに感情移入したい、彼らの関係性にドキドキしたいと。
それを存分に楽しませてくれるのが、何よりのこの作品の魅力であると感じました。
個人的には、複数の立場の違う登場人物たちが登場すると、誰がどの立場で何をしようとしているのかすぐに混乱してしまうので、壮大な群像劇を読むのが苦手なのですが、この小説は楽しめました。
ちょうどよい情報量を適度に提供してくれるので、物語についていけなくなることはありませんでした。
あまり語るとネタバレになってしまいますが、キャラクターの心が変化し、成長していく姿が魅力的でした。
私は、王様に様々な感情を抱きながらも付き従うニック、そして、ブラッディとランの関係が好きです。最初の印象とだいぶん変わっていく○○や、たくましく成長した○○○も素敵だなあと思いました(ネタバレのため伏字です)
描かれているのは綺麗なばかりではいられない厳しい世界です。妬み、殺意、憎悪も存在します。
主要人物は、誰かを思う心を持った人たちです。深く愛するがために、傷も深い。
その旅の果てに、彼らは何を選択するのか。
葛藤しながらも前へ進む彼らの姿は、読んだ人の心の中に何かを残してくれると思います。
裕福な王都と、壁に隔てられたスラム。
スラムの教会で身寄りのない子供たちを集めてともに暮らす、緋色の王様。
無邪気で純真で、けれどどこか歪な王様を中心に繰り広げられる群像劇。
特筆すべきは、群像劇でありがちな登場人物への理解の困難さがこの作品にはありません。
それは作者の丁寧な心理描写とキャラクターたちの作りこみが、読者の認識へするりと入ってくるからだと思います。
幸福な者、不幸な者。
慈しむ者、妬む者。
登場人物たちの気持ちは願いとなり、それは魔法となって具現化していく。
そのような世界であるがゆえに、物語は大きく動いていきます。
誰かのために、あるいは自分のために願う人々の「願い」が、
絡み合い、寄り合い、一つの結末へと綺麗に向かっていく……。
願いの果てに緋色の王様や、取り巻く登場人物たちがどうなったのか、是非確かめていただきたい。
描写、構成、キャラクター、ひっくるめて完成度が高い作品です。
児童文学系で書籍化を希望します。
王都のすぐ隣にある壁で隔てられたスラム。そこには身寄りのない子供を集めて教会で世話をする一人の青年がいた。子供たちに暖かい食事と寝床を与えて童話を読み聞かせ、真紅の長い髪と瞳を持つことから、『緋色の王様』と呼ばれるその青年。しかし、彼の周りには一人を除いて、大人の姿はいない。では成長した子供たちはどこへ行くのか……。
本作品は、この緋色の王様を中心に紡がれる、複数の人間の思いが絡み合う群像劇だ。
子供に生きる意味を問いかける闇商人、王都で暮らすお姫様とその幼馴染、幼いころに誘拐された貴族の子供、りんごを報酬がわりにするスラム一の情報屋、そして王様が《神様》と呼ぶ地下に隠された謎の生物……、いずれもいわくありげな人物ばかりだ。
人々が何かを願うことが魔法になるというこの世界で、果たして誰の願いが結実し、誰の願いが打ち砕かれるのか。
怪しげな雰囲気と複雑にもつれていく人間関係が魅力の、先が気になってついつい読み進めたくなる一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
「あるところに、王さまがいました。ひいろの王様と呼ばれています。
王さまはやさしくて、スラムの子どもたちに安心をくれました。
しょくじ、えほん、おふろ、ねむるところ、ともだち。
王さまは、まほうが使えました。まほうは、願いからうまれます。
だから、王様は子どもに、自分の願いがかなうように願うことを
求めたのでした。
でも、そこにスラムから来た大人は、だれもいませんでした」(短編部略)
緋色の王様と呼ばれる存在は、「神」を欲していた。そして神によって、自分が救済され、願いを叶えてもらえると。だから、魔法の源である「願い」を強く持つスラムの子どもたちを招いては、自分の願いを叶えてくれるように願わせていた。緋色の王様のもとには、二人の男がいた。一方の男は記憶を消去させる瞳を持ち、緋色の王様が願いを叶えたら、王様を殺そうとしていた。もう一方の男は……。
そして、子供が大人になった時、子供はある場所に連れて行かれる。そこにいたモノこそ、王様が「神」と呼ぶ存在だった。
今日も、スラムで一生懸命生きる子供たちを連れに、緋色の王様がやってくる。
連れて行かれたが最後、子供たちは王様の願いを叶えるために祈るだけの存在になる。
まだまだ謎が多いのですが、怖いです。不気味すぎます。
これこそ、ダークファンタジーという印象を受けました。
これからの季節にピッタリな作品。
是非、御一読下さい。