願いと想いが絡み合う、童話のような世界。

裕福な王都と、壁に隔てられたスラム。
スラムの教会で身寄りのない子供たちを集めてともに暮らす、緋色の王様。
無邪気で純真で、けれどどこか歪な王様を中心に繰り広げられる群像劇。

特筆すべきは、群像劇でありがちな登場人物への理解の困難さがこの作品にはありません。
それは作者の丁寧な心理描写とキャラクターたちの作りこみが、読者の認識へするりと入ってくるからだと思います。

幸福な者、不幸な者。
慈しむ者、妬む者。
登場人物たちの気持ちは願いとなり、それは魔法となって具現化していく。
そのような世界であるがゆえに、物語は大きく動いていきます。

誰かのために、あるいは自分のために願う人々の「願い」が、
絡み合い、寄り合い、一つの結末へと綺麗に向かっていく……。

願いの果てに緋色の王様や、取り巻く登場人物たちがどうなったのか、是非確かめていただきたい。


描写、構成、キャラクター、ひっくるめて完成度が高い作品です。
児童文学系で書籍化を希望します。

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