薔薇の香る濃厚なゴシックファンタジーは、緻密で煌びやか。初めて知る光景は人が生き噛み合うもので、あまりに当たり前に成り立っていて圧倒される。
まるで上質な映画を見るように自然と流れていく文章を追っていくと、その不可思議と美しさ、そしてそれだけでないぞっとするような危うさすらも手首をつかみ心臓を騒がせる。
そんな素晴らしい世界とぞくぞくとした興奮は多くの方が紹介なさっているので、私はこの世界の優しい魅力を伝えたいと思います。
カニバルブーケのあまりに美しくしかしあまりにも目を逸らしたくなるような謎を追う二人は、生きてきた場所も考えも違う。そのくせ凸凹コンビというにはあまりに噛み合っていて、まるで歯車のようにも見える。
人間から迫害される魔女という立場のセスと、有名な職人のロゼル。
二人は悩みを共有するのではなく、お互いなにかを抱えながら、確かに立つその人と並んでいる。
優しい人となり、言葉を重ね合い自身にない能力を素直に讃え、信じ、個々のものを確かにしながら歩む。背中を合わせる。
とにかく最高の二人、だと思っています。美しさは生き様でも有り、読んでいる側に凛と立つ薔薇が胸にあるような心地。
そしてそれは二人だけではなく、登場人物の姿がどれも魅力的です。
完ぺきではなく揺れ動く弱さを有しながらも、優しく・美しく・気高く・そこに在る。最高の人物たちと最高の関係を、満喫してみませんか。
すばらしいゴシックホラーファンタジーの紡ぐ物語は、絶望ではなく確かな優美さで彩られています。
ときに華やかに、ときに強烈に、ページから漂うような薔薇の香り。思わず息を呑んでしまうほど鮮やかな硝子の街。濃厚な世界観にどっぷりと浸れる物語です。
主人公である魔女セスと真紅を身に纏う職人ロゼルの友情も、見どころの一つ。衝撃的(?)な出会いから、とある事件に巻き込まれ、行動を共にすることになった二人。なるべく人間と関わらないように努めるセスですが、うっかりロゼルに懐いていく姿に、くすりと笑みが零れました。互いの価値観や信条を知り、ときに疑問を持ちながらも、しだいに認め合っていく姿が、熱く胸に残ります。
また、セスの師匠であるブージャムも、印象的な人物です。ブージャム自身は登場しませんが、ときおり挟まれる会話や心情から、セスにとってかけがえのない存在であることが窺え、師弟愛にじんわりと心が揺さぶられます。
おぞましい薔薇の奇病に巻き込まれ、出会った魔女と人間の物語。
その美しさを、優しさを、怖ろしさを、ぜひ、味わってください!
はじめの印象は「よくわからないけれど、好きだなぁ」でした。
うまく言葉にできない「好き」の方が、むしろ根っこの部分に刺さっていることが多いのではないでしょうか。
この物語には、薔薇を食べる魔女セスが登場しますが、薔薇は一方的に食べられるだけの存在ではなくてカニバルブーケという姿で人間を食べもします。
そして人間は魔女を迫害する。
薔薇と魔女と人間はどこか歪な三竦みというか三角関係となっており、食べる・食べられるという関係が美しい細部を縫いながらも、むき出しに迫ってきます。
そもそも薔薇っておいしいのか。そんなわけはない。でも、セスが食べているのを読んでると美味しそうに見えてくるから不思議です。
この作品は「愛でること」と「食べること」の近しさ、狂おしさを突きつけてくれます。愛するものを食べたくなるのはたぶん健全な衝動ですが、食べることで愛しい対象は破壊され、消失してしまう。
こうしたジレンマ、そこにある居たたまれなさが、この作品を「好き」と思った理由なのでしょう。
かつて肉体を持たない存在だった魔女と性自認に悩み、妹と名前を取り換えたガラス職人、どちらも確定され得ない揺らぐキャラクターとして描かれています。
揺らぎやズレは、まさにそのことによって、他者と繋がり合うことを可能にさせます。セスとロゼルの出逢いはまさにそうしたものです。
まだ開幕のパートまでしか読んでいませんが、続きを、薔薇を味わうように楽しみたいと思います。
唐突にIQ溶けたようなタイトルを入れてしまい申し訳無いところではありますが、本当にその通りの高レベル技な物語です!
師匠と呼び慕っていた魔女ブージャムが亡くなってしまったことから、凄腕の硝子職人ひしめく王都アルバへ越してきた主人公・セス。
(彼もまた白髪・褐色肌・敬語キャラという好きにならないわけがない要素のトリプルアクセルですので是非に是非に…)
ところが最近、世の中には「カニバルブーケ」という人間から赤薔薇が咲く不気味な奇病の噂が蔓延していたりして…。が、セスはそんな噂を「くだらない」と一蹴。
そしてアルバへ向かう列車の中でセスは、どういうわけかカニバルブーケに執着する真紅の職人・ロゼルと出会うわけですが…?
物語のキーワードとなる薔薇と硝子と魔女、この三つが絡み合い煌めきあい最高得点を叩き出すストーリーを是非にご賞味あれ!
気付いた時には筆者独自の世界観にがっつり胃袋を掴まれてしまうこと請け合いです!
まず目につくのが知っているようで知らない、既視感を感じるようで全く異なる世界。
例えば「花と言われれば」と尋ねられれば、多くの人が思い浮かべるであろう赤い薔薇が一般的に存在せず、物語を動かす特別な花へと昇華しています。
代わりに別の色合いの薔薇が、様々な名前を付けられて作中の節々に登場しており、作中でも重要なキーワードとなっている。
また、日常の生活によくある退屈な光景を、独特の世界観を分かりやすく取り入れ、楽しいシーンへと昇華する作者の手腕が光ります。
15話の「手紙を運ぶ青い鳥」の話が特にレベルが高いです。是非見てほしい(こぶしを握る)
そしてその煌びやかで美しい舞台で踊る、魅力的なキャラクターたち。
まずはメインキャラクターのセス
薔薇の味しか分からず、薔薇でしか食欲を満たせない「魔女」たる主人公。青年魔女で白髪という時点でついていこうと決めました。
序盤の1話2話目の食事シーンにて、キャラの個性と性質をガッと書き込んで読者にセスというキャラ認知させる。
食事というものはキャラ性がとても出るのですが、ここまでキャラを印象付けられるのは設定の良さと作者の描写力のたまものだと思います。
強さと弱さ、そして狡さが、妙に生々しい人間らしくバランスが取れていて安心して見守っていられるキャラです。
続いて相棒的な立ち位置となるロゼルも、一癖二癖あります。
普通の作品なら女性を置くじゃないですか、普通。けれどロゼルは女性ものの服を着た男性なんです。
しかもオネエという訳ではないんです。今巷でよく議論されている、ジェンダーの話を不快感なく落とし込んで、生きている人間としてしっかり書き上げているのは「凄い」の一言につきます。
他にも魔女である面々もとても魅力的で、作中でどんな物語を紡ぐのかは、是非本編を読んでいただきたく思います。
個人的にもっともっと評価されてほしい作品です。