薔薇を味読すること

はじめの印象は「よくわからないけれど、好きだなぁ」でした。

うまく言葉にできない「好き」の方が、むしろ根っこの部分に刺さっていることが多いのではないでしょうか。

この物語には、薔薇を食べる魔女セスが登場しますが、薔薇は一方的に食べられるだけの存在ではなくてカニバルブーケという姿で人間を食べもします。

そして人間は魔女を迫害する。

薔薇と魔女と人間はどこか歪な三竦みというか三角関係となっており、食べる・食べられるという関係が美しい細部を縫いながらも、むき出しに迫ってきます。

そもそも薔薇っておいしいのか。そんなわけはない。でも、セスが食べているのを読んでると美味しそうに見えてくるから不思議です。

この作品は「愛でること」と「食べること」の近しさ、狂おしさを突きつけてくれます。愛するものを食べたくなるのはたぶん健全な衝動ですが、食べることで愛しい対象は破壊され、消失してしまう。

こうしたジレンマ、そこにある居たたまれなさが、この作品を「好き」と思った理由なのでしょう。

かつて肉体を持たない存在だった魔女と性自認に悩み、妹と名前を取り換えたガラス職人、どちらも確定され得ない揺らぐキャラクターとして描かれています。

揺らぎやズレは、まさにそのことによって、他者と繋がり合うことを可能にさせます。セスとロゼルの出逢いはまさにそうしたものです。

まだ開幕のパートまでしか読んでいませんが、続きを、薔薇を味わうように楽しみたいと思います。







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