氷海のヴェルヌ

作者 カムリ

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116人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

最初の一文を目にしたとき、私はそう決意した────いや、させられたのだ。
何も分からぬうちに淡々と描写される主人公の日常は、特異でありどこか牧歌的である。これは知っている。見たことがある。この語り口を、どこかで。
それなのに、謎ともされず物語は進む。奇妙な安心感。人類は瀬戸際に立たされているのに、だ。
私たちは安心して彼の冒険に身を委ねる────まるで幼き頃読み聞かせられたおはなしのように。
しかし違う。
この既視感はそういうものではないのだ。
私はこの素晴らしい小説をスマホで読んでいた訳だが、それが間違っていたのだ。
これは文庫ではないか?
ハヤカワ文庫SFで、あの独特な表紙絵が思い浮かぶ。
いやそれとも、あの鈍器かと思うような分厚いハードカバーの、あのくそ重い本ではなかったか。
とにかくこの小説はその類であり、私はそれに出会えたことを感謝する次第である。
願わくば早く完結し、感動のラストまで導いてほしい。

★★★ Excellent!!!

この作品は、『氷惨』と呼ばれる氷の怪物の脅威に晒される世界が舞台のSF。冷たくむごい世界や、そこで足掻くキャラクターたち、独特の表現で描かれる戦闘シーン。様々な魅力があり、読者を引き込んでゆきます。

主人公は、ジュール・ヴェルヌ。大事な人を喪い、もう二度と大切なものを取り零さないよう、懸命に、倒れないように、挫けないように、痛々しいほど前を向いて戦います。

英雄たちの力は、物語の力は、この世界に抗って、乗り越えることができるのか。世界の果てで紡がれる彼の物語は、一体どんな結末を迎えるのか。最後まで追いかけていきたいと思える作品です。

★★★ Excellent!!!

毛皮を持たない人間が、氷点を遥かに下回る非人間的な寒さを凌ぐには、防寒具や暖房器具や山ほどの燃料が必要だが、多くを必要するだけにそこでは心の奥の何かがむき出しになる気がする。

そういうわけで僕は「冬」や「北」を舞台にした物語が好きだ。

映画では「FARGO」や「ウィンド・リバー」などがいまだ記憶に新しい。小説ではあるけれど、ここに加わった「氷海のヴェルヌ」も案に相違せず、やっぱり大好物だった。

ロジックのあるバトルシーンの妙は見習いたい。用語のカッコよさや世界観の構築にも学ぶ部分が多い。キャラたちも活き活きとしているうえ絶妙な加減に抽象化されており、広い層に受け入れられそうだ。

氷海のヴェルヌにおいては病と敵の襲来とそれにともなう人間たちの決死の闘争がある。

19世紀を舞台とし、実在の作家ジュール・ヴェルヌを主人公にしたのは、素晴らしい発明だと思う。「書く」ことと「戦う」ことを兼業できるヒーローはあまり思い当らない。なぜなら書く人は傍観者で、外側に立つことによってこそ克明な記述ができるからだ。

しかし本作のヴェルヌはそうではない。

彼は戦いつつ――つまり巨大なうねりに巻き込まれながら書くほかない。そこでは精確さよりももっと貴重でかけがえのない鮮血で書かれたような文字が綴られるはずだ。

すでに人気作品だと思うが、まだまだ人気が出そうだ。

★★★ Excellent!!!

未知の脅威に襲われた19世紀の凍土が舞台に数多の英雄たちが入り乱れる歴史改変SF。
一介の文士ジュール=ヴェルヌによって語られることで、過酷な世界でただの人間ではいさせてもらえなかった英雄たちの物語が生まれ、彼もまた英雄譚に組み込まれていく。
作家ヴェルヌは想像力の可能性を説きつつ、なぜ僕たちは大人にならねばならないとき子どもなのかと呟いた。
戦う人間の力強さを語り、ただの人間だった英雄の無力さに寄り添う。極寒の中でも熱い“フリーズパンク”です。

★★★ Excellent!!!

氷の怪物に侵略される十九世紀、主人公がまさかの少年ジューヌ・ヴェルヌという独自性のあるシチュエーション。
異常に変異してしまった世界の悲惨と見た事もない光景を、共に切実にありありと見事に描写している。
怪物とそれに抗う異能、そこに絡む「人間が想像できることは、必ず人間が実現できる」という言葉。
切実な内容でありながら奇妙に胸が高鳴る、正に極地冒険、更に十九世紀という時代とジューヌ・ヴェルヌという主役がその雰囲気を強く掻き立てる絶妙さを持つ、死と悲しみとロマンの入り混じった見事な物語です。