靴、久しぶり

真っ昼間という選択肢はなかった

もちろん朝方や夕方でもなく

俺は夜、靴を履いた


久しぶりだ、靴

靴と靴下に閉じ込められた両足がじんじんと鼓動を早める

夜の街に対する感慨は不思議とない

街をゆく人々は以前と変わり映えがない

ときどき、ああここは取り壊されたんだなあとか……

……角にあった風呂屋が今は煙突だけになっている……

だけど感慨はない

自分の遠くで街は勝手に動き続けている


自分の感覚として今感じられる最も感慨を覚えるものは

締め付けられだんだん痒くなってくる俺の両足

ことに足の内側 足首あたりにある 謎の突起

これだけなのだ

目でも鼻でも耳でもなく

靴こそが俺と外界を繋ぐ器官だった

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