夏の匂いは隠されていた

とんぼ玉骨太郎

その扉を開けないでくれ

いや、冷たい風が入ってきたりだとか

敵の軍勢が押し寄せてきたりだとか

名前も知らない誰かにこじ開けられたりだとか

霊が入ってきたりだとか

反対に出て行ったりだとか

私の引きこもり欲求が阻害されたりだとか

そういうことではない

開け方に問題があるのでもなく

押しても引いてもスライドしても

いやそもそもその扉は引けないしスライドできないが

そういう問題でもない


ただその扉は

見ての通り木造で

蝶番がついている

蝶番は錆びていて

扉を開けるときにきぃきぃきぃと音が鳴る

木の音じゃない

蝶番の錆びの軋む音だ

擦れる音だ

その音が嫌いだ


だからといって直しもするな

開けなければいいだけの話

直すだけの気力を使ってやる必要もない

この扉を開けずともその横を通り抜けて私は 君は 扉の向こう側に行けるのだし

この扉を開けずとも何も困ることはない


それなのにまだ君は

この開ける必要のない扉を開けることに意味があると思いたいのか?

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