不汗症

汗のかきかたを忘れた私は

とりたてて汗をかくための努力をせずにいた

尊厳とか外聞とか羞恥とか自己愛とか

そういうものが私の汗腺には粘土のように練り込まれていて

もう汗をかくことはない

もしかしたら走ったり怒ったり恐がったり暑がったりすれば

また汗をかくのかもしれないが

その全てが無意味で非効率的に思えて

それをしない


粘土は灰色でところどころ黒い粒が入っている

黒い粒がざらざらと肌の外で中で擦れ

生き残っている痛点を時折刺激する

なんだ なんで涙腺は残っているのか

汗の代わりにただ流し続けるその粒が

汚く発光する粘土を流しさってくれればいいのに

流れる粒も一粒や二粒で

粘土をさらにぎとぎとにするだけだ


埋もれた汗腺の下でたまに 何かが蠢く気配がある

汗腺の下で地脈のように繋がり 指の先を震わせる

それはかつて汗だったもので

もうけして汗にはならないもの

シャツは乾いたまま

ただ雨にしか濡れることはない

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