不汗症
汗のかきかたを忘れた私は
とりたてて汗をかくための努力をせずにいた
尊厳とか外聞とか羞恥とか自己愛とか
そういうものが私の汗腺には粘土のように練り込まれていて
もう汗をかくことはない
もしかしたら走ったり怒ったり恐がったり暑がったりすれば
また汗をかくのかもしれないが
その全てが無意味で非効率的に思えて
それをしない
粘土は灰色でところどころ黒い粒が入っている
黒い粒がざらざらと肌の外で中で擦れ
生き残っている痛点を時折刺激する
なんだ なんで涙腺は残っているのか
汗の代わりにただ流し続けるその粒が
汚く発光する粘土を流しさってくれればいいのに
流れる粒も一粒や二粒で
粘土をさらにぎとぎとにするだけだ
埋もれた汗腺の下でたまに 何かが蠢く気配がある
汗腺の下で地脈のように繋がり 指の先を震わせる
それはかつて汗だったもので
もうけして汗にはならないもの
シャツは乾いたまま
ただ雨にしか濡れることはない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます