第16話 柚子塩ラーメンと餃子

「七海は柚子塩ラーメンなんてどうかな?」

「へえ、美味しそうだね」

「具材は鳥チャーシューに水菜に柚子の皮だったはず。スープは最後まで美味いし、あっさりしてるから二日酔い気味でもいけると思うぞ」

「そうだね。あっさりは嬉しいかも。私は雄ちゃんおすすめの柚子塩ラーメンにしようっと」


 雄ちゃんは私が二日酔いじゃないかと気遣ってくれる。

 優しいな。

 だいぶ頭痛も治まったし、そんなに二日酔いの不快感はもうなかった。

 

 私はさっきの雄ちゃんの言葉を噛みしめていた。

『魅力があるよ』なんて言われたら嬉しすぎて雄ちゃんがちょっと輝いて見えてきた。


「俺はこってり味噌ラーメンにしようかな。餃子は? 餃子も食うか?」


 餃子って……ニンニク入ってますよね?

 ニンニク入りは匂いますね。

 二人で食べたら大丈夫かもしれないけどなあ。

 私は困った顔をしてたらしい。


「ニンニクなしもあるぞ。食べられそうなら食べようぜ。ここ餃子も美味いからな」

「いま雄ちゃん、私の心を読んだ?」

「プッ。顔に出てるよ。七海はすぐ思ってることが顔に出るからなあ」


 雄ちゃんはちょっと吹き出しながら私を見て「いい? 決まりな?」と確認する。

 私が「うん、いいよ」って言ったら、雄ちゃんは慣れた調子で手を上げて店員さんを呼んだ。


「美味いからたくさん食べちゃうぞ。俺たち」


 雄ちゃんがニコッと私に笑ったら嬉しくなっちゃった。

 なんだかいつもこんな笑顔で雄ちゃんは笑っていたのかなと不思議な気持ちになる。


 目の前のテーブルに透き通ったスープの柚子塩ラーメンと雄ちゃんが頼んだ野菜がたっぷりの味噌ラーメンと羽根つきの焼きたて餃子が並んだ。


「いただきます」

「いただきます」


 雄ちゃんと私。

 友達になってからもう十年以上の付き合いになる私たち。

 いつもは大勢の仲間でわいわいしてる。そこでの私と雄ちゃんはみんなが一緒の賑やかで楽しい輪の中にいた。

 私たち、それが当たり前だったもの。


 この日は初めて二人っきりでご飯を食べた日だった。



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