第3話 記憶がない
――ふあぁっ。
欠伸をひとつ。
私は目が覚め、周りを見渡す。
うんっ?
えっ、あれれ……。
あれ?
ちょっと待って?
あれ?
朝、だ。
ウソでしょ?
合コンはどうなったんだろう。
だって。
私は、知らない部屋にいた。
「おはよ」
よく知ってる声がする。
目の前には付き合いの長い、一つ年下の男友達の
「……っ! ……っ!」
私の口はパクパクするだけで言葉が出て来ない。
しばらくズキンズキンと鈍く痛む頭で必死に考えようとしたが、う〜ん、うまく思い出せないっ。
「あたた……。頭いったあい。ゆ、雄ちゃんがなんで一緒にいるの?」
「記憶がないのか?」
「えっ、ああ、うん。記憶がないよ。すっぽり抜けちゃってる」
「記憶が抜けてんのか……。そういや俺、付き合い長いけど、七海がぐでんぐでんに酔ったの初めて見たしな〜。頭痛はするのか? 大丈夫か? まあ、まず水でも飲んで。うちにあるやつで構わないなら二日酔い用の薬かアルコール頭痛薬飲みな」
雄ちゃんは苦笑いをしていた。
「ありがとう。……あの、ここ雄ちゃん
友達グループみんなでよく遊びに来ていた雄ちゃん家じゃなかった。
「ここは俺ん家。ついこのあいだ引っ越したって言ったけどなあ。七海は昨日の夜もそれ俺に聞いてたよ」
「昨日の夜……」
私はベッドに上半身を起こしてしばらくじっとしていたが、昨晩の記憶がすっぽり抜け落ちてしまっていたのに呆然とした。
頭痛薬をもらい飲んだけど、私の頭はまだぽや〜っとしていた。
何がなんだか分かんない。
さっきまでメグミと秋羅と一緒に賑やかなお店で楽しくお酒を飲んでいたような……。
ちょびっとばかりは、いやいやかなり寂しかったような……。
うーん。
あの後、私はどうしたんだろう?
雄ちゃんが珈琲を
マグカップを受け取る。
温かい湯気と珈琲の香りが気持ちを落ち着けてくれる。
「ミルクと砂糖はそこな。好きなだけ淹れて飲みな」
「ありがとう」
「あのさあ、七海。昨日のことはな〜んも覚えてないわけ?」
「ごめん……雄ちゃん。まったく」
「酒、強い方なくせに。ちゃんぽんしたろ? 無茶な飲み方すっから」
私は確かにお酒を飲める方だと思う。
いつもならしっかりおつまみを食べ、酔い具合とか体調とか考えながら楽しんでお酒を嗜む。
飲むペースは無理しない。
酔い潰れるまで飲むのはない。
人の介抱はしても、自分が介抱される側にはまわったことがなかったんだよね。
――だから記憶がないのは初めてだった。
「あの。なぜに私は雄ちゃん家にいるのでしょう?」
「俺ん家に来たいっていうからさ」
「わっ、私が?! まさかっ! だっ、……だって私」
「会社の人と合コンしたんだよな?」
「うん」
「メグミも
「あーっ。そうだったかな〜?」
「メグミも秋羅も、七海のこと心配してさっきなぜか俺に電話が掛かってきたからな」
「……私が二人の恋路のチャンスのお邪魔になると悪いからね、雄ちゃんに迎えに来てもらうから大丈夫って言ったのかも」
記憶はまだまだおぼろげであんまし自信がないな。
「で、寂しくなって俺を呼んだと。
雄ちゃんは笑っていた。
「あの。恥ついでに……。まさかあの……私達なんもないですよね?」
「なんでいきなし敬語?」
雄ちゃんはニンマリ笑った。
「なんも無かったってことも無いかもしれないな。俺とのあれこれも覚えてないなんて七海はひどい奴だなあ」
うっ……ウソ。
「ウソでしょっ〜?!」
私はクラリと
「たぶん。メグミに秋羅も、俺と七海が朝まで一緒に俺んとこいるの分かってんだろ」
「あわわわわっ!! 二人はいらぬ誤解をしたのではっ?」
「――いらぬ誤解? 大丈夫じゃねえの。よく俺ん家に泊まるじゃん、大勢で。というか、いらぬ誤解でもないような」
「えっ。ど、どういうこと?」
「まあ、落ち着けよ七海。二人にはあとで電話しな。二人ともデート中かもしれないから、まずはメールにしとけば?」
「う、うんっ。そうする〜」
私はまた布団に潜り込みたくなった。
夢だ、これは夢に違いない。
また寝てみたら次は自分の部屋のベッドで目が覚めるんだ、きっと。
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