おまけの話
その日私は雄ちゃん家でほとんどの時間を過ごした。
夜には雄ちゃん家にいながら、メグミと秋羅にメールをしてみる。
二人とも心配してくれてたみたいだし、あと……付き合うことになったことは言わねばなと。
雄ちゃんとはみんなで共通の友達なわけだから、伝えておかないとあたふたしたり気まずくなりそう。
皆で会う機会はたくさんあるもんね。
遊びに出掛ける時とか、どんな態度で行ったらわからなくなるし。
みんなの前で雄ちゃんと話す時、接しかたに困る。
先に言っといた方がぜったいに良い!
電話もしようと思ったけど二人してデート帰りだったので、とりあえず簡単に報告をする。
――雄ちゃんと……。
つ、付き合うことになったって――
📨
しばらくするとメグミと秋羅から返事のメールが来た。
私とメグミと秋羅の三人のグループメールでは、会話がピョコピョコ音がして絶え間なく続く。
『あの〜、驚くかもだけど。雄ちゃんと付き合うことになった』
『おめでとう! 良かったね。ずっと前から雄ちゃんは七海のこと好きだったからね〜。やっとか』
えっ? メグミは雄ちゃんの気持ちを知ってたのか〜。
『おめでとう!
七海、雄ちゃん、良かったね。
七海さ、実は雄ちゃんに口止めされてたんだけど、雄ちゃんが七海のこと好きだってあたしも知ってたよ〜』
えっ?
秋羅も知ってたの?
『彼女と長続きしないのも七海が好きなせいだったんだからね』
『えっ? 私?』
秋羅のメールの言葉にハッとする。
『雄ちゃんの前カノなんかさ、雄ちゃんの七海への気持ちを分かった上で付き合って。
ちっとも自分の方を向かないから冷めたって話。
発展しないからって彼女の方から振ったらしいや』
そんないきさつが……。
『雄ちゃんが七海を好きなことはさ、当事者の七海本人以外、周りみんな気づいてたと思うけど〜。(笑)
だいたい雄ちゃんは意気地がないんだよね。
七海が他の奴が好きでそいつと幸せなら仕方ないとかなんとかかっこつけちゃってさ〜』
そ、そうなんだ。
私ってば、鈍感だな〜。
雄ちゃんに申し訳なくなる。
『まっ、とにかく。おめでとう!』
『幸せにやんなよ。
七海と雄ちゃん相性が良さそうだから、心配してないけどね。
次みんなで会う時は七海と雄ちゃんのことをからかって弄りまくろうっと♡♡』
ええっ……!
すっごい鈍感じゃん、私。
今までも雄ちゃんはずっと私に思いを寄せてくれてたんだ。
「ねえ、雄ちゃん」
「んっ? 二人はなんて言っ……」
雄ちゃんはエプロンをつけて食材を並べ料理を始めてる。
その背中に後ろから抱きついてみた。
「七海。抱きついてくれて嬉しいけど、俺は今は包丁持ってるから危ないぞ」
「ごめ〜ん。あのね、二人が『おめでとう』って」
「ああ、うん。良かった」
「それから。……雄ちゃんってずっとずっと前から私のこと好きだったの? 好きでいてくれてたんだね。ごめんね、ぜんぜん気づかなかった」
「あ、あいつら〜。言わんでいいことまで暴露してくれちゃって。……七海」
「うん?」
「料理作る前にイチャイチャすっか」
「――ええっ」
「今日は約束どおりにキスとかしないけど。俺は七海を今すっげえ抱きしめ返したい。料理作ってる場合じゃなくなってきた。抑えが効かないな」
「雄ちゃん」
抱きしめてる私の腕を優しく浮かすと、雄ちゃんはくるりとこちらに向いてきた。
「七海。友達が居心地良くて、勇気が出なかったんだよ俺」
「うん」
優しく抱きしめられると雄ちゃんのぬくもりが心地よくて、すーっと力が抜けてくる。
安心リラックスでほわほわな気分に包まれる。
なんか眠たくなるなあ。
ドキドキもするのに、不思議。
「関係を壊したくなかった。壊れたら、気まずくなっちまったらさ、七海にもう会えなくなると思ったから」
「うん。私は自分のことばっかりだったね、ごめんね。よく恋愛相談とかのってもらってたけど、辛くさせてた?」
「あー、まあ。複雑だったし胸は痛んだが……。俺は七海には幸せになってほしかったから。いい加減な気持ちで相談には乗ってないからな」
「うん、ありがと……」
雄ちゃんがあったかいから余計な力が抜けて。
目がトロンとしてきちゃった。
眠気に軽く包まれる。
「疲れたのか? そうだよな、疲れたよな。七海は寝てな」
「……うん。色々あって目まぐるしくかったなあって。でも私もシチュー作るよ。雄ちゃんと一緒に料理したいし。――……きゃあっ」
私は雄ちゃんにお姫様抱っこされてる!
「軽いな、七海は。しっかり寝て、しっかり食べろよ。シチューは俺が作るから休んでな。一緒に作るのはまた今度な」
「ありがと、雄ちゃん」
「俺たち、恋人同士になったばかりじゃんか。ゆっくり二人で一個一個色んなこと楽しんでけば良いよ」
「うん、そうだね。なんか悔しいなあ」
「なにが?」
「雄ちゃんって年下のくせに私より大人なんだもん」
「えっ? そうか? 七海と俺は一歳しか違わんからあんま変わらなくね。それに七海も俺より大人なとこあるよ」
「どこどこ〜?」
「気遣いができるトコに、皆の議論が熱くなっても一歩冷静で見てる。険悪さが出そうな場面もクールに対処するトコだったりとか」
「クール? 私が? そ、そうかな。えへっ。ちょっと照れますが……」
雄ちゃんはお姫様抱っこのまま立ち止まってて、私の鼓動は鳴りっぱなしだ。
あのー、ずっと私を抱えたままで辛くないのかな……。
「前にメグミと秋羅が喧嘩寸前だったのを上手く収めたのはすげえなと思ったよ」
「そんな、……凄くないって。でも嬉しい。あの、ずっとお姫様抱っこしてるの辛くないですか」
「ぜんぜん。俺、七海を間近に感じられてドキドキしてる」
「あ、甘いな」
「ハハハッ。甘いなあ」
私は雄ちゃんにベッドに運ばれて、彼が優しく布団を掛けてくれる。
キッチンに戻ろうとする雄ちゃんの背中を見てたら。
……なんか寂しい。
(あ〜、七海がかわいい。キスしてえな。だが我慢、我慢)
「雄ちゃん」
「んっ? どうした?」
「キスして」
「は?」
ドキドキドキ……。
七海の方からキスのおねだりとは、なんて大胆なっ。やべえ、嬉しい。
「キス、おでこにして」
「あっ、ああ。デコチューですね。ハハハ」
雄ちゃんが私の前髪をそっとかきあげ、おでこに口づけを落とす。
「……雄ちゃん。私が寝るまで添い寝して」
「添い寝……」
「うん、添い寝してくれる?」
「ああ、いいよ。七海がして欲しいなら」
(くう〜っ。七海可愛いっ。俺、我慢できっかな)
「七海は甘えん坊だな」
「だめ?」
「いーや、だめじゃねえぞ。――添い寝って、七海をぎゅうっと抱きしめてて良いんだよな?」
「……うん。雄ちゃんにあらためて言葉にして言われると恥ずかしさ倍増する」
「恥ずかしがってる七海も可愛いよ。俺は七海とこうやってようやくイチャイチャ出来んの嬉しいし。甘えてもらえるの、好きなんだよね。でも……まさかこっそり酒飲んでねえよな?」
「の、飲んでるわけないじゃん。私、雄ちゃんとくっついていたいだけ」
「じゃあ、……お邪魔しま〜す」
ベッドが軽く軋んで音を立てる。
七海のいる布団に潜り込んだものの、俺はどうすべきか躊躇う。
密着しすぎて理性が吹っ飛んで抑えが効かなくなるのはイヤだ。
今日は七海に手を出さないと誓ったから。
「では、私の隣りにどうぞ」
「七海。七海を前から抱きしめて良い? それとも後ろからが良い?」
私、ボンッて頭が爆発しそう。
「ど、どちらでも。私、どっちも好きです。雄ちゃんとそばにいられるなら。……前でもバックハグでも! 雄ちゃんのお好みでどうぞっ」
「では……遠慮なく」
雄ちゃんは私を後ろから抱きしめた。私は雄ちゃんの腕のなか、彼の鍛えられた腕に頬をつけ寄せる。
「七海をまずは後ろ抱きで抱いて、次は正面から抱きしめるよ」
今晩は彼氏の家にお泊り。
私の彼氏が雄ちゃんって新鮮な気持ち。
「くつろいでる?」
「うん、まあ……」
「七海、俺ん家が居心地悪いとか」
「ちが、違うの。まだ慣れるのは無理そう。くつろぐのは難しいみたい……だってドキドキが止まらないの」
「プッ……。ハハハッ」
「やだ、笑わないでよ」
「可愛いなあっ」
いや〜、もぉ、色々もろもろヤバイぐらい俺は幸せだし。
今夜は頑張って欲望を抑え込んで我慢します。
俺の腕のなかにすっぽり包まれた七海から、スヤスヤと聞こえる寝息。
「七海、寝ちゃったのか」
もうちょっと彼女のこのぬくもりを堪能して幸せを噛みしめたら、七海のために晩御飯を作ってやろう。
七海に「美味しい」って言わせたい。
俺は七海の笑顔が見たい。
七海の男友達からは卒業。
俺は七海の彼氏で、恋人になったんだ。
でも、大切な想いは変わらない。
もっと心の内まで知り合って、正真正銘の七海の彼氏になろう。
壊さないように大切に関係を育てていきたいんだ。
七海と俺の二人で一緒に暮らす日を夢見て。
俺は彼女の好きがいつか愛に変わる時を待つさ。
女友達、男友達――、抜け出した俺たち。
俺は七海にますます恋い焦がれてる。
おしまい♪
男トモダチ〜友達以上恋人未満な私たち〜 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
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