最終話 ニヤッと笑う雄ちゃん
頭のなかが雄ちゃん一色になっていた。昨日の私は相当盛り上がっていた。
『俺もずっと前から七海のことが好きだよ』
うわっ! うわー!
心臓がドクンッと波打った。
『じゃあさ、七海。俺たち付き合おうか? 俺は七海を大事にするよ』
『雄ちゃん、嬉しいかも』
『ほんとだぞ? 冗談じゃないからな。……七海さん、俺と付き合ってください』
『なに〜? あらたまって七海さんとか照れるよ〜。雄ちゃんったら真顔だ』
『俺、真剣なんだけど』
『うん、付き合う。雄ちゃんのこと好きだもん。私、好きだもーん』
『……酔っ払い。仕方ねえなあ。なあ、七海。明日の朝もちゃんと覚えておいてくれよ?』
『は〜い。忘れるわけがありません。こんな大事なこと〜、忘れるわけがありませんってぇ』
『七海は俺の彼女だからな。七海は俺のものだ。もう俺たち、ただの友達じゃないぞ』
『は〜い。彼女です、あなたは私の彼氏か。うんうん、ラブラブカップルだ。イチャイチャカレカノだ』
『七海、好きだ』
そ、それでまたチューしたよね。
雄ちゃんがチューしてきたよね。
次々と思い出す雄ちゃんの言葉に顔も心も熱くなって、私は雄ちゃんを見られない。
直視なんか一秒だってもたない。
「へえ。思い出したって? なにを? どこを? 七海が思い出したのはどのへんなんだろうな」
雄ちゃんが私の顔を覗き込んできた。雄ちゃんの瞳が期待からか輝いている。
「ちっ、近づかないでっ」
だめだ。意識しちゃう。
雄ちゃんはニヤリと笑った。
「ハハハッ。その様子だとマジで思い出したみたいだな? 七海の顔が真っ赤で笑えるなあ。七海は可愛いなあ」
雄ちゃんは笑いながら一歩進んだ。
振り向きざまに、顔が近づく。
ドキンっ――!
接近されるときゅんとなって、心臓が鼓動を早く打ちすぎて壊れそう。
頭からは湯気が出てくるんじゃないかな。
だって、……熱い。
「ふふっ。思い出したかあ。良かった。七海が何もなかったみたいに普通だったからがっかりしてたんだよな、俺。まじ、七海と付き合うってなったのなんてさ、実は夢とか妄想だったんじゃねえかと思ったもん」
「ごめん。真剣な話だったのに」
「七海と俺って感じ。俺たちらしいじゃん。そんなハプニングも七海とだから楽しいぞ。さあっ、帰ろう? 七海」
「うんっ。帰ろう、雄ちゃん家に」
「そのうち一緒に住もうな」
「えっ、ええっ?」
「うん、いつか。ってか出来たらさ……、すぐにとか思うわけで。俺はいつでも大歓迎だからな。七海さえ良ければ近いうちにが良い。お前といるとドキドキが楽しいから」
雄ちゃんはスーパーの袋を二つとも片手に持って、空いた手で私の手をぎゅうっと握ってきた。
「今日は七海に手を出さないけど、手を繋ぐのはセーフ?」
「うん」
別に良い……かも。
実はそう思ってしまった。
雄ちゃんとなら手を繋ぐ以外にもしても良いのにな、イチャイチャ。な〜んて思ってしまったりして。
「でも良かった。七海が思い出してくれて嬉しいよ」
雄ちゃんはホッとした声で私の瞳を見つめてきて「気持ち、変わらない?」と聞いてきた。
私は精いっぱいの気持ちを込めて言った。
「変わらないよ。雄ちゃんが好き」
雄ちゃんが甘く潤んだ瞳で私を見ている。繋いだ手から雄ちゃんの熱さが伝わってくる。
ぎゅっと握られた手が雄ちゃんの体温を感じてる。
「七海。俺も七海をすごく好き。俺と付き合ってくれるんだよな?」
「うん」
私はこくりと
「よっしゃあ! やった!」
にっこり笑う男友達の雄ちゃんは、私の彼氏の雄ちゃんに変わっていた。
「なあ。そのうち七海の行きたがってるサントリーニ島にも二人で行こうな」
「うん! 行きたい。雄ちゃんと行きたいよ」
「ハハハッ。これから二人でいろんな所に行こうな〜」
「うん、嬉しいよ。雄ちゃん」
(雄ちゃん……大好きだよ)
私は陽気に笑う雄ちゃんの横顔を見つめながら歩く。
私たちは雄ちゃんの家に手を繋いで帰る。
きっと明日からいつもより朝日が眩しく感じられるんだろうな。
なんてことない日常。
つまらなく感じてたっけ。
もう一度、私、仕事を頑張れる気がした。
勇気を出して転職も出来る気がした。
私を想って寄り添ってくれる、男友達から私の大切な彼氏になった雄ちゃんがそばに居てくれるから。
おしまい♪
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