第21話 雄ちゃんからの電話
私は
「やめてっ! 離してっ!」
聖陽に押さえつけられてぜんぜん体の自由がきかない。逃げたいのに逃げられない。
会社のビルの一階にある社員用の駐車場の奥に停めた私の車は人目につかない。
誰も通りかからないなんて。
「無理矢理こんなことしたって無駄だからっ。私は聖陽の所には戻らないからね」
静かな口調に怒りを込めて私は聖陽に訴えかける。
それでも聖陽が奪うように口づけてこようとするから、私は精一杯顔を反らしたり背けた。
抵抗して逃げようとする私に追い打ちをかけるように、聖陽は私の顎を掴んで、怒りの浮かんだ目でじっと見つめてきた。
嘲るような残酷な笑みを浮かべてる。
私は、聖陽の睨むような冷ややかな目に全身に寒気が走った。
「七海は俺の強引なキスも好きだったろ?」
「それはあなたを好きだった時の話。付き合ってる時だからだよ。たまに強引だけど好きと心のこもったキスと、乱暴なキスは違う! 今の私にはあなたへの愛しさの欠片もない」
聖陽が私の両手首をさらにきつく掴んできて、ますます互いの体同士が密着して不快感が増していた。
私はバタバタと足を動かし抵抗してみるが、聖陽の力にはかなわない。
私の首元に聖陽は顔をうずめる。
「愛してる、七海。俺とやり直そう」
「それは出来ない。いやっ!」
「いずれは結婚しようとまで言ってたじゃないか俺たち」
聖陽は顔を上げて私の顔を赤くなった目で凄みをきかせて見てきた。
確かに私と聖陽は独身者同士だったし付き合っている時は盛り上がって結婚したいねと言っていたけれど、私たちは別れたんだ。
そんな約束は無効でしょ?
私は聖陽が何人もの女の人と浮気したのを知ってるんだから。
聖陽がまた顔を近づけてきて私は顔を背けた。
覆いかぶさる聖陽の重さに抵抗が出来なくなった。
横に避けた私の顔を追うようにして、聖陽は今度は逃さないとばかりに私の両頬を手で強引に抑えて唇を重ねてきた。
「んんっ!! ……っ!」
やだっ! やめてっ!
私は涙が出て止まらなかった。
乗っかる聖陽を私が押しのけようとしてもそれよりも強い力で私を抑え込んでくる。
どうしよう。
元彼の聖陽に塞がれた唇。
痛くて辛いだけのキスはただ罪悪感だけがあった。
雄ちゃんに申し訳ない気がした。
頭が真っ白になってきていた。
泣きじゃくっても、聖陽は力を緩めてはくれない。
突然、音楽が鳴った。
――…♪…――
ああっ!
私の電話が鳴ってるんだ。
着信音がずっと車内に響いていた。
たぶん雄ちゃんじゃないかと思った。
……私が来るのが遅いから、心配した雄ちゃんからの電話じゃないかなと私は思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。