第20話 よりを戻したい

 聖陽まさあきがあまりにも、きつく抱き締めるから私は苦しくなった。


「ねえっ! やめて」


 私はゆうちゃんのことを思い出していた。 

 さっきまで横にいてくれた雄ちゃんの優しい笑顔と陽気な笑い声。

 そして柔らかいそっと重ねる口づけの感触を思い出して胸が苦しくなった。


 私は抱きついてきた聖陽の背中を力いっぱいに叩いたが、彼は私を離してはくれない。

 ばたばたと暴れてみても、全身で押さえ込まれてしまう。

 一向に諦めてくれる様子はない。


「やめてったら。離してっ!」

「いやだ離さない。七海ななみが俺とよりを戻すって、付き合いなおすって言うまで」


 雄ちゃんが待ってるのに。

 私はこれから雄ちゃんといろんな話をしたかったから。

 早く雄ちゃんの所へ行きたい。

 涙が出てきていた。


「無理だよ聖陽。私はもう聖陽のとこには戻れない」

「一度くらいの浮気の何が悪かった? 俺を好きだと愛していると言ってたろうが。何が悪いっ! 俺たちはやり直せる。俺はお前が気に入らないところを直すから、七海は俺のところに戻って来いよ!」


 私は聖陽に体を強引に押さえつけられて行き場がない。


「やめてよ。こんなとこ誰かに見られたらどうすんの?」

「フッ……。見られることなんかないさ。会社には俺以外いないぞ。今日は誰も他には来てないからな」


 聖陽の興奮しきった様子が怖くて仕方がない。

 この人と付き合っている時には、抱き締められてあんなに愛おしく感じていたのに今は怖い。

 これ以上はこの人に抱かれていたくないよ。


「ねえっ! ただの執着心だけじゃないの? 聖陽が私にあるのは」

「執着だと? 違う。俺は七海をまだ愛しているからだ」


 聖陽が私の首筋に唇を這わせてくる。

 すっかり好きでもない相手からの口づけにぞっとした。

 私に恐怖心と不快感がどうしようもなく重たく襲う。


「聖陽やめて。私たぶん本気で好きになれる人を見つけたから。――それはあなたじゃない!」


 私のこの言葉がいけなかった。

 私は本心を今の気持ちを言っただけだったのに。


 私の目の前に迫る聖陽が怒りで逆上したのが分かった。

 

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