第17話 会社に車を取りに行く

「あー、すごく美味しかった」

「そうだろ、ラーメン美味かっただろ? 七海が喜んでくれて良かった。また来ような?」

「うん。ぜひ誘ってください」

「な、なぜ、突然の敬語?」

「ただ、なんとなくだよ〜」


 ちょっと二人きりは緊張してる。

 隣りに立つ背の高い雄ちゃん。

 緊張というか、ときめき……。私はうるさいくらいの胸のドキドキで、雄ちゃんにどう接したらいいか分からなくなってしまってるのです。

 プラス、私はお腹がいっぱいになってた。

 あとなんだか胸もいっぱいかも。


 私と雄ちゃんは車に乗り込んで私の会社に向かう。


「雄ちゃんさ」

「んっ?」

「ありがとう」

「なんだよ。礼なんて」

「昨日なんで来てくれたの?」

「なっ、なんでって……」


 泣いてたんだよ、お前。

 いても立ってもいられなくって俺は七海の所へ飛んでいったよ。

『寂しい』って。

 泣いてたから。

 駅の入り口の前で待ってる七海の所に着いたら抱きつかれて。

 なんだこいつ可愛いなって思った。

 可愛い。

 普段なにも言わないけど我慢してんだなって。

 助けてやりたいって、一緒にいてやりたいって思った。

 七海の支えになってやりたいなと俺は思ったんだよ。

 そう七海に言いたかったが、俺はすっごく今照れくさい。


「七海に呼ばれたら行くしかねえだろ?」

「えっ? ……あっ、ありがとう」


 嬉しい。


「もうさあ。お前な、どっからどこまで記憶がないわけ?」

「分かんない。だって忘れてるから」

「はあ。あとで会議な。とことん追求するぞ。俺と七海で『付き合うって言ってくれたくせにすっかり忘れちゃった案件』についてじっくりと話し合いだ」


 雄ちゃんが冗談っぽく言うといつも不思議と心が軽くなる。

 早く気づけば良かった。

 近くにいたんだ。

 いい男。格好いい人。

 優しくて面白くてあったかい雄ちゃん。素敵かも。


「そういや。あのさあ、メグミと秋羅あきらには言ったのか?」

「……」

「なんだよ〜。寝ちゃったのか?」


 私はうとうと雄ちゃんの車の助手席で揺られて眠り始めていた。

 お腹はいっぱいだし、車に乗ってると気持ちが良いなあ。


「まったく……無防備だな」


 ――んっ?

 んんっ?


 雄ちゃんがキスして来た!

 赤信号で雄ちゃんがキス……して来た。


「んっ」

「起きた?」

「今っ?! した?」

「なにを?」

「ゆ、雄ちゃん! 私にキ、……キスした!? したよね?」


 キスの感触で半分寝かかってた私は目が覚めた。

 雄ちゃんの柔らかくて少し厚ぼったい唇。雄ちゃんのキス。

 その熱さととろけるような優しいタッチの口づけにびっくりした。


「したよ。七海が可愛いからついキスしちまった」


 ハハッと雄ちゃんは笑った。


「不意打ちキス……」

「ごめんって謝らねえぞ。昨日の七海は俺と付き合うってはっきり言ったかんな。……俺は七海が好きだから」

「謝らなくてもいいもん」

「えっ……」

「イヤじゃなかった」

「――そ、そっか。なら良かった」


 雄ちゃんの運転する横顔が恥ずかしくて見れない。

 

 カアッと顔が熱くなる。

 私の顔が火照ってる。

 照れた様子の雄ちゃんの顔も真っ赤になっていた。

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