第11話 いっかいチャラ。リセットで。

 まったく、思い出せない。

 私は頭を抱えた。


 こんな大事なこと。

 雄ちゃんのことは好きだ。

 ただ友達じゃない『好き』かどうかをちゃんと自分の心に確認したい。


「あとさ。昨日のメールに返事したのか?」

「メール?」

「なんだよ〜。七海はそれも覚えてねえの?」


 意味が分からないなあ。


「携帯。七海、携帯電話見てみぃ?」

「携帯電話を?」


 私は自分の携帯電話を開くと何個かの数の未読メールや返信してないメールが入っていた。


【七海さん、俺は君が好きです。

 一目惚れしました。

 よかったらぜひ俺と付き合って下さい。

 また会えることを心から楽しみにしています。

 返事、ください。

     名木壮真なぎそうま


「なっなっ……、何これ〜?!」

「そいつも気の毒だな。昨日から何回もメールしてきてんだろ? 返事してやったら?」


 名木壮真なぎそうまって誰だっけ。うーん。


「誰だろう。分からないなあ」


 これ私あてのメールだよね?

 間違いなく。

 七海さんへって書いてあるからなあ。

 なんでこんなメール貰ったんだろ。


「そいつ沢渡って人の同級生で合コンに遅れて来たって昨日七海は言ってたぞ」

「あっ! 思い出した! 飲み会の席で隣りに座られて喋った時に本とか映画の趣味があったんだよね」

「なあそのままの勢いで俺とのことも思い出せない?」

「うーん……」


 雄ちゃんの車はラーメン屋さんに到着した。

 私は思い出そうと昨日の朝からの記憶を行動を思い浮かべながら順序立てて考えるけど、やっぱり肝心なところがすっぽり抜けちゃっているのだ。

 雄ちゃんは駐車スペースに車をバックさせながら言った。


「まあ、いいやっ! もう! 一回チャラ……、リセットで良いや。七海、仕切り直させてよ。俺のお前への告白をさ」

 

 そうして車を停めてエンジンを止めたら雄ちゃんは私の耳元で囁いた。

 あわわわっ。

 雄ちゃんっ!

 せ、接近しすぎではございませんか?


「七海のことますます好きになったから。今日は俺とゆっくり話ししよ?」

「――っ!」


 きゃあっ。近すぎて私の耳に雄ちゃんのふわっと息がかかる。


 いつもの雄ちゃんはどこに行った?


 男友達の雄ちゃんは今日は違う雄ちゃんだ。

 私の知ってる雄ちゃんじゃない。


 ドキドキした。

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