第9話 雄ちゃんの車に乗る

 雄ちゃんの住んでるアパートのすぐ目の前に駐車場があった。

 トヨタのVOXYは相変わらず綺麗に磨き上げられていた。


「……お邪魔します」

「どうぞ」


 私は雄ちゃんに促されるままに助手席に乗ったらなんだか緊張してきた。

 いつもはしない緊張でガチガチだ。

 自分が油の切れたロボットみたいだなとか、ファンタジーな考えがよぎる。

 このままの調子だと今日の私、ちぐはぐな意味不明なこととか口走っちゃいそう。


 運転席に座ってエンジンをかける雄ちゃんの顔をマジマジと見つめていた。

 その私の視線に雄ちゃんが気づいてニカッと笑った。


「なに? 七海はまさか俺の横顔が凛々しくて格好良いからって見惚れてんの?」

「まっ、まさか」

「七海ならいくらでも見つめてくれていいよ」

「口説いてるの?」

「まさかあ」

「雄ちゃん、私の言った『まさか』にまさかあをかぶせて、面白がってるでしょ」

「バレた? ってかさ、最初のまさかは俺が言ったかんね」

「も〜う!」

「七海はウシだ。可愛い牛だな。も〜も〜言ってる」

「雄ちゃんっ!」


 雄ちゃんは冗談を言って大声でまた笑う。

 陽気なひとだと思った。

 そして私を楽しませようとしてくれてる。気を使ってくれてるのを感じた。


「俺のお気に入りのラーメン屋で良い?」

「うんっ。良いよ」


 車は車道に滑り出すように静かに走り出した。


「あと……、今日は俺に付き合ってくれんの?」


 前を向き真剣に運転する雄ちゃんはちょっと格好良く見えた。

 私は雄ちゃんといたいと思った。素直になってみようと思う。


「付き合うよ。昨日と今日のお礼も兼ねて」

「ホントかっ?」


 チラリと私の方を見た雄ちゃんの顔はすっごく嬉しそうだった。

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