第8話 「3 女帝」のカードの話 (3女帝)(18月)
今日は「女帝」のカードの話をしようと思います。
タロットカードの大アルカナ二十二枚は大きく分けて天体系、人物系、イベント系、ステータス系の四種類に分かれます。
天体系、人物系のカードは読んで字の如く天体や人物が書かれているカード、イベント系は出来事や物事を表すカード、ステータス系は心理状態を表すカードです。イベント系とステータス系を区別しないで一緒に考える場合もあります。事実この二つの境界は少し曖昧です。
割と間違えやすいのですが、「死神」「恋人」のカードは人物が書かれているように見えますが、人物系ではなくイベント系です。「悪魔」のカードも同じように人物系ではなくステータス系です。
そして「世界」のカードと「塔」のカードは、イベント系ではなくて天体系です。
「審判」のカードはイベント系ですが、カードの並び(19太陽、20審判、21世界)とキリスト教由来の成り立ちを考えると、昔は天体系と同じぐらいの意味の強さを持っていたのではないかと思っています。ただ、現代の占いではそこまで強い意味に取らないことが多いです。
このあたりの区別は占いをやってると自然と分かってきますが、頭に入れておくと出てきたカードを読みやすくなります。つまりカードの意味の強い順に天体、人物、イベント、ステータスとなるので、この順番にカードを読んでいくのです。
人物系のカードはだいたい似た意味のステータス系のカードがありますが、人物系のカードが出る場合はステータス系のカードが出る場合と違い、「具体的な誰か」が占いの結果に影響を与えている暗示があります。
今回は、前回のお話しでタケシが引いた「女帝」のカードが示した出来事のお話しです。
◇
「誘惑された子を好きにならなきゃならんのかどうか。それが聞きたいことなんだろ?」
僕の質問にタケシは硬直しました。たじろいだ視線をすがるように僕に向けて、しばらくの間ためらってから口を開きます。
「なんで分かるんだよ」
タケシは嘘がばれた子供のように身をすくめました。
「タケシらしくもない。愚問だよ。カードに出てるよ、ばっちりと」
「そんなことまで分かっちゃうのか」
「分かる。カードを甘く見ちゃいけない」
僕は、まあ聞けよ、と言いながら、カードの意味をタケシに説明していきました。
女帝(逆)
過去 現在 未来
星 恋人 塔
月
宣託
節制
現在の位置に「恋人」の正位置。ある程度恋模様が進んでいないと、ここにこういう出方はしません。特定の誰かと恋愛を進めた状態で、現在の状況は一応タケシにとってもその女の子にとっても悪い状態ではありません。
しかし
この女帝の
そして忘れてはいけないのが女帝のカードは人物系ということ。タケシは既に「特定の誰か」と結び付いている状態をカードは示唆しているのです。
さらに、
「……という感じだな。要するにタケシはある特定の女の子とものすごく親しくなった。カードはすでに肉体関係ありで、それは女の子からの誘いだったと言ってる。でもこれでいいのだろうか、その相手のこと好きになれるんだろうか、とタケシは不安に思っている、と出ているな。俺は肉体の関係に心が追い付いていない状態なんじゃないかな、と思う訳よ」
僕はいつもよりもかなり丁寧にカードの意味を説明しました。だんだんタケシの表情が固まっていきます。
「…… ゆうすけ、降参だよ。そこまで当てられるとは思わんかった」
「だろ? だからカードに隠し事してもダメなんだって」
「でも、一応一言だけ言わせてくれ。肉体関係は……まだ未遂なんだ」
「へー、でも一緒のことだよ。肉体関係がどこまで進んでるかはあんまり関係ないな。お前、自分で分かってるんだろ? このまま色仕掛けの誘惑にはまるのは良くないって」
「……うん。まったく当たりすぎだよ。怖くなってきた」
タケシはうなだれてしまいました。まるで取調室の犯人です。まあせっかくできた初めての彼女になりそうな子との出会いが、相手の色仕掛け、誘惑だったと分かってしまうのはちょっとかわいそうではあります。
「タケシ、まだ先があるんだよ。カードが言うにはな、このままではお前が破滅する、正直言ってその子はやめとけと」
タケシの引いた将来のカードは「塔」。「女帝」の
「……まじか。なんてこった」
タケシは割と絶望的な顔をしました。無理もありません。僕は淡々とカードの説明を続けます。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。カードはな、お前らしく友情から変わっていく愛情に目を向けろ、とアドバイスしている。というか、おまえそういう愛情に変わりそうな女の子、別にいるんじゃないの?なんかそれっぽい暗示だぞ? マキちゃんとかどうなのよ」
宣託の位置に出た「節制」のカード。少し意味が読み取りにくかったのですが「堅実」「流れに身を任せる」「性急なことをしない」というカードの意味をそのままタケシに当てはめて伝えました。
マキちゃんというのは僕たちのサークルの同期、容姿も性格も至って普通の明るい女の子です。正直言って男子校出身のタケシが始めて彼女にするのは、マキのような普通な子がいい、と思っていました。
間違っても色仕掛けで既成事実を作って、それを盾に押してくるようなビッチは彼にはおすすめできません。
「……マキかあ。カードがマキにしろって言ってるのか?」
「いや、そこまではカードには出ないよ。マキちゃんの名前出したのは俺の思いつき」
「分かった。分かったよ。まじで降参だ。マキがいいかどうかはともかく、とりあえずあの子は、とりあえずあの子はやめとくべきなんだな」
「そうだな。カードは断固やめとけって言ってる。ここまではっきりと出るのはなかなか珍しいぞ」
タケシが顔をあげたところでふと思いついて僕は聞いてみました。
「ところでさ、タケシ。もう占いには関係ないんだけど、その相手の子って誰なの?」
「ああ、本当はな、ゆうすけ、お前その子のこと知ってると思ったからさ。占いよりも相談にのってもらおうと思ってたんだよ。名前出す前にずばずば当てられちゃって、まじでまいったわ」
「俺が知ってる子?」
僕は嫌な予感に身震いします。
「彼女、お前のこと知ってるって言ってたぞ。経済学部の片桐あずさ。お前一緒の高校だったんだろ?」
―――― 片桐あずさ、だと?
まじかよ。
なんでまたこいつの名前を聞かなきゃいけないんだ!
占う前に聞かなくてよかった、と僕は大いに安堵しました。
それと同じぐらい、いや、それ以上に聞かなきゃよかった、と激しく後悔します。
「片桐なのかよ!
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