第8話 暗黒の森の花畑
「さーて!お礼も弾んでくれるってことだし、行きますか」
意気揚々と言った感じで森に繰り出した
「すみません…旅の途中だとお伺いしていたのにうちの大司祭が…。
私に出来ることならなんでもお手伝いしますので」
そう言ってみせたにもかかわらず、心配そうな目で見られていることに気が付いたソフィーは、三人の前に駆け出てくると、自分の胸のあたりをポンと叩き、腰に手を当てる。
「こう見えても魔法の腕は町一番なんですよ!
大地の女神の力が衰えてしまっても精霊たちは私達に力を授けてくれているのです…これも信仰の成果なのでしょう。
きっと貴方たちを魔物の攻撃から守ってみせます」
「さっきは大蛙相手に腰抜かしてたみたいだけど…本当に大丈夫かい?
道中はシノブと一緒にちゃんとあたしの後ろにいるんだよ?」
「あ、あれは…その…急だったからビックリしただけで…」
「わかったよ。頼りにしてるよソフィー」
自分のツッコミで、さっきまでの自信に満ちた顔を一気にしょげさせてうつむいてしまったソフィーを見て笑ったスコルは、彼女の肩を軽く叩いて笑いかける。
「は、はい!」
「俺も頼りにしてるからさ。
それにしても今日の服装は前回と違って少し薄い布地…にもかかわらず、やはり胸部のボリュームが変わらないところを見るとやはり…」
「いいから!」
隣でまた長々と服とおっぱいについて語りだそうとした信の襟首を掴んでずんずん進んでいくスコルを見て、ソフィーは吹き出すと、ナビネと手を繋いで森の奥へと歩を進めていく。
最初は明るい日差しと小鳥の鳴き声の響く平和そうだった森も、危険だと言われている神殿があった方面に進むに連れおどろおどろしい雰囲気になってきているようで、木々の色は深い緑になり、生い茂った草や蔦のせいで日光が届きづらいのか歩いている道の土も湿り気を帯びてきているようだった。
「この辺りから先は暗黒の森と呼ばれる領域です。…ここ数年ここから奥には誰も踏み入れていません。なんでも途中で赤い髪の女が帰れと忠告してくるらしくて…」
ソフィーがスコルの服の端を掴んで辺りをキョロキョロしながら怯えた声を出す。
ギャアギャアと不気味ななにかの鳴き声が辺りから聞こえ、時折光る魔物の目らしきものや、鬼火が見え隠れする様子は町の周りの森とは全く違うので怯えるのも仕方ない。
ナビネも元のドラゴンの姿に戻り、信の肩の上で魔物の急襲が来てもすぐ気がつけるようにと目を光らせている。
そんな厳戒態勢で進む中、カーテンのように分厚い蔦を切って進もうとしたスコルが足を止めたので、後に続く二人は玉突き事故のように前の人の背中にぶつかってしまう。
「どうしたんですか?…わぁ」
スコルの横からヒョコッと顔を出して前を覗き込んだソフィーは目の前に広がる花畑に明るい声をあげた。
森の木々もちょうどその場所だけをさけるように生えているせいか、町の近くの森のように明るく、その場所だけは蝶や小鳥がのんびりとした様子で地面に虫を食べたり、花の蜜を味わっているようだ。
「気をつけろ…こういう場所こそ罠があったりヤバイ魔物がいたりするんだ。
あたしが先にいくから、合図をしたら私の足跡を辿ってこっちまで来るんだ」
無防備に花畑に走っていきそうになるソフィーを止めたスコルは、剣を構えながらジリジリと前に進んでいく。
花畑の真ん中あたりにある誂えられた椅子のような切り株あたりまできたスコルはやっとホッとしたような顔をすると信と、彼の服の裾を掴んでいるソフィーに合図を
するために手をあげようとした。
その手をひんやりとしたものに掴まれて、彼女は思わず小さな悲鳴を上げて自分の手を掴んできたなにかがいる方向へ剣を向けながら振り向いた。
「…っ!何者だ!?」
「おどろかせてしまったかしら?ごめんなさい。ちょっと忠告をしようと思って出てきただけなんだけど…」
若い葡萄酒のような美しく波打つ髪を腰まで伸ばしたその女性は、本当にポンと急にそこに現れたようだった。
スコルの方を見ていた信たちも目を丸くして驚いて固まっていたが、女性が指をスゥッと動かすと、スコルのすぐ隣に自分たちが移動していることに気が付いて今にも腰を抜かしそうなほど驚いた表情をしながらキョロキョロした後に顔を見合わせる。
「ここから先はこわーい狼がたくさんいるから町に戻ったほうがいいわよ。バカンスに邪魔だからここには入ってこないようにはしてるのだけれど…」
髪の毛をかきあげ、厚く潤いのある唇に人差し指を悩ましげにそういうと、先程から自分の胸部を見ている一人の青年に気が付き、口の両端を持ち上げて妖艶な微笑みを浮かべて信にピタリと身体を寄せた。
「あら…坊やはここが気になるのかしら…」
豊かな胸部を信の身体に押し寄せながらそう囁く女性の言葉に信が頷くのを見ると、女性は大きく開いている服の胸部に指を引っ掛けて少し見えている谷間を更に晒そうとする。
「あ。谷間は見せなくて大丈夫ですしまってください。そのままもう少しおっぱいの方を俺の身体におしつけていていただけると…」
「え?あ、ああ…。そうなの…。こう?」
手をそっと握られながら自分のサービスを丁寧に断る信に、葡萄酒色の髪の女性は驚きを隠せないまま彼に言われるがまま身体をそのまま押し付ける。
「あー。最高です。ありがとうございました」
満足そうな顔をしてパッと身体を離してお辞儀をした信を見てやっと我に返った葡萄酒の髪の女性は、何か懐かしいものを見るような目で彼のことを見ると、どこからか出してきた白い木の杖をサッと振って目の前に立派な木のテーブルと椅子を出し、
木の杖でトンと地面を叩くと、ポポポンという奇妙な音と赤い煙と共にテーブルの上にはいい香りを漂わせているティーセットとお菓子が現れた。
「…属性はちょっと違うけれど…私が昔贔屓にしていた子にすごく似ているわね。面白いわ。少し話相手になってくれないかしら?私は
先程からの不思議の連続に目を白黒させていた信以外の一同だったが、彼女に敵意がないとわかると表情を緩め言われるがまま彼女が魔法で出したお茶を頂くために席についたのだった。
※※※
「楽しい時間をありがとう。お礼にこれをあげるわ。きっと危険な時に貴方達を助けてくれるはず」
楽しいひと時をすごせたとダヌは、信の手首に小さな青い宝石のついた金のバングルをつけてあげると柔らかく微笑んだ。そして、信の隣にいたスコルの腕を軽く引っ張り、なにかを彼女の耳元で囁いた後にいたずらっぽくウインクをしてみせた。
「ちが…」
「スコル、どうした?」
「なんでもねーよ。いくぞ」
大きな声を出して顔を耳まで赤くしたスコルは何が起きたのかと声をかけてきた信から露骨に顔をそらす。
そんな彼女を見てダヌはクスクスと口元を押さえて上品に笑った。
「気をつけてねー。って、あの黒い狼の子がいるならこっち側に怖いものなんてないと思うけど」
大きく手を振って彼らを見送ったあと、ダヌは何かを知っているかのようにそう呟いたが、その場を去っていた彼らには彼女のその声は届いていなかった。
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