第38話 高みの見物
「いやー、あのカーテンはすごかったけどさすがに壊れちゃったね」
少し遅れて高台へやってきたルリジオは、下を見て絶望している
そのままルリジオは地面に腰を下ろして寛ぐように両足を前に放り出すと、信たちは青ざめた顔のまま高台の下の砂煙の中を覗き込むようにしている彼へ声をかける。
「あの…アビスモさんとオノール殿が見当たらなくて…」
「銀の君がここにいないということは心の底から心配ではあるけど…まあ、アビスモがいるなら大丈夫じゃないかな?ちょっと疲れたし、彼に任せて休憩しようか」
「え?」
目を丸くして言葉を失っている信を乗せたままスコルは、ルリジオの隣へ来て高台の下を覗き込む。
砂煙で何も見えないのを確認したあと、未だのんきな様子のルリジオの顔を再び見つめて首を傾げた。
「あの魔法使いは肉弾戦が苦手だと言っていたが…」
「ほら、見ていてごらん?」
砂煙が異形の魔物の長い腕が巻き起こす風で渦を巻くように動く。その土煙がまるで濁流のように流れていく先を示しているルリジオの指先へと信たちは目を凝らす。
「オノール殿とアビスモさん!よかった無事だった…」
「でも、このままだとあの化物のながーい腕が直撃しちゃうんじゃないかしら?」
ハティの言う通り、アビスモには異形の魔物の長い腕がまっすぐにアビスモと彼の背後でうずくまっているように見えるオノールのもとへと真っ直ぐに向かっているのが上からははっきり見える。
しかし、アビスモたちからは巻き起こされた土煙が煙幕のようになっているのか彼は迫りくる魔物の腕を防ぐための防壁や結界を張っている気配はない。
「あぶない…!」
土煙と飛んでくる小さな石の礫がうっとおしいと言いたげに目を細めたアビスモの目の前に、土煙の煙幕を割って魔物の長い腕が現れた。
思わず声を上げた信は、次の瞬間ルリジオがあんなに呑気だったことに納得することになった。
魔物の腕が当たったかとおもったアビスモだったが、彼は腕一本で巨大な魔物の腕を受け止めていたのである。
「な…」
「肉弾戦はマジでしたくないんだよ…。大丈夫か鎧の女」
アビスモは手にとった巨大な化け物の腕を両手で掴むとそのまま上に持ち上げて放り投げ、自分の背後で目と口を見開いているオノールの方へと振り向いて涼しい顔をしながらそういった。
「俺様の体は仮初のものだ。壊れても支障はない…が…今はそれどころじゃ…」
砂煙の中から聞こえる悍ましい魔物の鳴き声が聞こえたかと思うと、薄くなってきた砂煙の奥から幾つもの触手が伸びてくる。
「はあ…
オノールを肩に担ぐようにして持ち上げたアビスもは、先端が槍のように鋭く尖った触手の間を紙一重で避けながら辺りをキョロキョロと見回している。
ぬめぬめとした粘液を撒き散らしながら次々と伸びてくる触手をまるで階段でも登るように軽やかに踏み台にしながら上空へと逃げたアビスモと、高台にいる信の目線が合った。
「アビスモ、最近運動不足だろー?ちょうどいいからあの大きなアレを頼むよー!」
信の隣にいるルリジオが、自分の方をみて苦々しい顔をしているアビスモに手を振ってみせると、アビスモの眉がピクッとわかりやすく釣り上がった。
「待て!は?なに?」
いつもの口調と尊大な態度が崩れるほど慌てたオノールの声から少し遅れて、落ちていくアビスモが大きく腕を振りかぶるのが見える。
「うわああああ」
アビスモの肩から射出されるように放り投げられたオノールが高台の上にいるルリジオの方へと勢いよく投げられたのだ。
ルリジオは、悲鳴を上げながら自分の方へと飛んでくるオノールを両手を広げて受け止めた。
「め、めちゃくちゃだ」
信たちとオノールが全く同じタイミングで同じ言葉を放ったのを見て、ルリジオは楽しそうに笑うと、魔物の女王の方を振り向いてから、再び高台の下を指さす。
「いやぁ、さすがに
「だ、大丈夫なんですか?」
「うーん、多分?」
ルリジオが愉快そうに首を傾げる様子に信たちは不安になりながら、異形の魔物のもとへ一人落ちていったアビスモの様子を見るために高台の下へ目を凝らした。
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