第28話 吼える獣の洗礼
「さぁ、行くぞ」
朝日が登り始めると同時に集合した四人にオノールは凛々しい表情をしながら声をかける。
昨日の優雅な服装とは違い、今日のオノールは白銀に輝く甲冑に身を包み機械仕掛けの馬に乗って槍を携えている。
「俺様の身体は仮初のものだ。壊れても問題ない。だから貴様たちは俺様に何かあっても無視して進め」
巨大な黒い門の前には、巨大なゴーレムがひしめき合い、門の向こうからは金属が打ち砕かれる音や魔物の咆哮や断末魔が響いてくる。
門の前で狼の姿に戻ったハティの上にはナビネが、スコルの上には
固唾を飲む信たちの周りを機械仕掛けの馬でくるりと回ったオノールが、右腕を掲げる。
右手の甲にはめられた魔石が神々しく光ると、天にまで届きそうな高くて大きな門の一部が呼応するように輝いた。
門が開く轟音とともにゴーレムたちがなだれこむように外へと飛び出していく。
土煙の舞う中、機械仕掛けの馬に乗ったオノールが携えている槍を高く持ち上げて前方に掲げた。
「全力で走れ!巻き込まれるなよ」
巨大な鉄の剣を持ったゴーレムたちに囲まれるようにして門から出ていく。
スコルとハティがゴーレムたちの中心で並走し、その少し前をオノールの機械仕掛けの馬が駆けている。
すぐに、何か硬いものが打ち砕かれる音がして、左にいたゴーレムが姿勢を崩して膝をつく。
それを皮切りにゴーレムたちが、二体、三体と周りを離れて巨大な魔物と戦うために剣を振るった。
鈍い風切り音と飛んでくる岩塊を避け、魔物の血を幾ばくか浴びながら懸命に一団は進んでいく。
周りの音が壮絶すぎて、オノールが声を張り上げていることはわかるものの何を言っているのかは聞き取れない。
しかし、信たちには、彼女の顔が曇っていることだけは感じ取れる。
彼女が高く掲げる槍の方向で進む方向はかろうじて理解できる。
「―――ろ!」
こちらを慌てた様子で振り向いたオノールに、ハティとスコルが意識を持っていかれた瞬間のことだった。
目の前スレスレをゴーレムがものすごい勢いで吹き飛んでいく。
すんでのところでゴーレムが吹き飛ばされた爆発を逃れた信たちは立ち止まったオノールの後ろで同じように立ち止まった。
「後少しなんだがな…」
オノールが苦々しい顔でそういった。
彼女の視線の先を追うと、そこには禍々しい二足歩行のゴーレムより二回りほど大きな魔物が立ちふさがっていた。
蛇の頭、豹のように美しい斑点がある胴体にライオンの臀部、鹿の脚を持つその魔物は、鼻と口から真っ黒な吐息を吐き出しながらこちらを見つめている。
魔物が頭を持ち上げて、鋭い歯が隙間なく生えている禍々しい口をこちらへ開くと、何十匹もの猟犬が吠えているかのような声が響く。
「
ブルレーンと呼んだ魔物に対して、オノールが右手を向けると、数体のゴーレムたちが禍々しいその魔物へと向かっていく。
ブルレーンの大きな口は一体のゴーレムの身体をまるで焼き菓子のように軽々と食いちぎり、鹿のような強靭な脚で他のゴーレムたちの身体も次々と打ち砕かれていく。
オノールが手を高く掲げてクルクルと回すと、信たちを囲むように周りのゴーレムが集まってきた。
「ブルレーンは俺様に任せて貴様らは目的の場所へ走れ」
そう叫ぶように言ったオノールが槍を東側へ向けると、ゴーレムたちが動き出す。
ゴーレムたちに踏み潰されまいとハティとスコルが流されるように走り出すと、オノールはそれを微笑んで見送った。
信は、スコルの背中にしがみつきながら、ブルレーンに向かっていくオノールの後ろ姿を見ることしか出来ずにいた。
このままオノールを犠牲にして龍の聖域へと向かうしかないのか…と無力感に打ちひしがれていると、再び何かが砕かれる音が近くで響いた。
地震のような振動がしたかと思うと地面にヒビが入り、真横で並走していたゴーレムが割れ目に足を取られて躓いた。
その瞬間、大きな蛇の魔物が躓いたゴーレムを丸呑みにした。
「何が起きてる?」
「最悪な状態ってことだけはわかるけどぉ」
「ハティの姉ちゃん…前っ」
叫ぶような声で話していたスコルとハティ、そして呆気にとられていた信は、ナビネの声で視線を前に向けた。
自分たちの間を先程ブルレーンに向かったはずのオノールが走り抜けていく。
目の前には黒い鱗をした巨大な双頭の蛇と、先程のブルレーンが並んで立ちふさがっていた。
そして、地面から出てきた二匹目の双頭の大蛇の尾がスコルの横腹を殴りつける。
不意に出てきた大蛇の尾を避けることが出来ず、スコルは吹き飛ばされると近くの赤茶けた岩に打ち付けられた。
スコルから振り落とされた信を庇うためにハティは走るが、目の前に飛び出してきたトカゲの魔物の唾液を顔面で受けてしまう。
トカゲの魔物の頭を噛み潰したハティだったが、いつの間にか近付いていたブルレーンの脚で蹴飛ばされ、スコルの上に重なるようにして吹き飛ばされる。
立ち上がろうとしていたスコルも、ハティを避けるわけにはいかず、そのまま身体を再び岩に打ち付けられて小さな悲鳴を上げて倒れた。
体中打ち付けた信は、なんとか立ち上がると今にもゴーレムたちか魔物に踏み潰されてしまいそうなナビネを助けるために足を引きずりながら歩き出す。
「シノブ!」
手を伸ばして抱き上げようとしたナビネの怯えた悲鳴で後ろを振り向く。
信の目前には鋭い歯が敷き詰められた凶悪なブルレーンの口が迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます