第13話 雪かまくら
尋常小学校を卒業してからは毎日仕事が待っていた、畑の仕事も待っていた
田んぼの仕事も待っていた、家の仕事も待っていた、母のこき使いは一層ひどくなった、間もなく雪の季節がやって来た、農閑期だ。
母はおばあちゃん、とく、妹、弟を連れて一ケ月の湯治に出かけていた、この間、源さんと二人で、馬の面倒を見ながら留守番する事が初めて許された、源さんは冬のこの湯治には行かず小市にも下りて行かない、理由は不明だ。小学校の頃には、きよこも漬物と大根、米をもって別所に出かけていた、何度も風呂に入り、気持ち悪くなる正月休みも卒業だった。
母は心臓が悪く、湯治の後一か月間、沢蟹を毎日二・三匹生でバキバキ食べるのが母の心臓の薬だった、冬以外は蟹に虫がいるらしい、何より激しく動き食べづらいのだ、お蔭で母はそのころにしては長生きだった。五人も子供を育て、おばあちゃんの面倒を診ていたのだから、心臓以外はその分強く、恐かった。
近くの沢から雪を退け、岩をひっくり返し沢蟹を取るのが、主なきよこの冬の仕事だった。
湯治の間だけは遊び放題だった、作蔵は徴兵され、その冬はもういなかった、新潟の訓練所に行ってしまっていたからだ、作蔵は三十前後だった。
毎年三メートル以上の雪が降るが、今年は例年より多くの雪が厠の屋根にまで届いていた。庭から水場まで、下の大根畑に水場まで除けた雪が積み上げられていた。
久しぶりに天気が続いた
きよこは近所の友達と雪洞を三日がかりで掘り続けていた、水場から庭まで道沿いに、水場まで洞窟の滑り台だ、出口は雪だるまで蓋をして、雪だるまの頭をくりぬき、枝で作った目の下に穴を開け、外が見れるようになっていた。この雪だるまの横には掘った雪で大きな雪だるまが二つ出来た、水場からは雪洞は見えていない、雪洞が有るのを知っているのは作った三人だけだった。
夕方になり三人は庭から雪洞を下り水場の雪だるまの後で潜んでいた、水汲みにやって来る人達や子供を「こんばんは」と声掛けしてこの何日か楽しんでいた、皆不思議そうな顔をして振り向くがそこには雪だるましかない、雪だるまの目玉は私達の覗き穴だ。向こぉんちの若奥さんがやって来た、きよこより二つ三つ年上なだけだ「こんばんは」と言うと「こんばんは」と直ぐに返してきた、又「こんばんは」と言うと又「こんばんは」と返してきた、振り向いては確認していたが、そこには誰もいない。二つ目の桶の水を汲み終わり、水桶のつるをまとめていた「こんばんは」と言うと若奥さんと雪だるまの目が合った。「キャー」と叫ぶと、雪と水場の雫で凍った淵から若奥さんは水場に落ちてしまった。桶は浮かびちょうど若奥さんを助けていた。奥さんを助けようと三人は庭まで雪堂を登り、水場に下りる小道をすべり転げながら水場に急いだ、若奥さんは水桶と天秤を捨て、すでに家に逃げ帰っていた。
子供は残酷だ、きよこ達三人は笑いを堪える事が出来なかった、水場までの道を駆け上がり、庭で無言で叩き合っては転げ笑った、冬の水場に落ちて助かったのは若かったからで、おばあだったら死んでいたかもしれない、嫁に来たばかりの奥さんはとんでもない所に嫁にきてしまったと後悔していたかもしれない。
夜になってきよこ達は雪明りで水場に集合した、水場はなにもなかったように水桶もかたずけられていた、急いで雪だるまの目を塞ぎ、庭の雪堂の入り口も雪でふさいで逃げ帰ったのは言うまでもない。
一か月間遊び放題のきよこだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます