第5話 蚕と青大将と鷹
春、夏、秋と蚕を飼っていた。
朝桑を刈り、はこび、蚕にくれるのは蚕の時期の日課だった
雨の日でもそれは同じ、ただ桑の乾燥が追加されるだけだ
桑ん棒を一本ずつ振り回す作業は地獄だ、手首が腱鞘炎になるからだ。
濡れた桑は蚕の病気の元。
卵から孵ったばかりの蚕はまるでボウフラ、成虫は芋虫、残った繭からは蛾が出てくる、とても可愛いものではないが生まれた時からの住人だから全く抵抗が無い、基本何が有ってもあまり気持ち悪かったりしないのきよこだ、まだ小さな蚕は乾いた桑の葉っぱだけを摘んでくる、もっぱら子供の仕事だった、緑色の大きいうんちをする頃になると、籠の下側からうんちだけを堆肥穴に集め、野菜の土作りにする
これが 重い・・・・
夏ご (夏に育てる蚕)の時には 夜の見張りもしていた
蚕が透き通る(ひきる)様になるとそろそろ繭を作る様になるのだが
これを狙ってネズミや蛙がやって来るのだ。ネズミは年中家に居る、きよこの寝床
藁部屋は、残った稲穂を狙って鼠が巣を作ってしまう、メス猫家族が鼠からいつも藁部屋を守っていてくれていた。舌が熱いのだろうに、猫は油をペロペロなめるから、菜種あぶらの明かりを消してしまったり、火のついた芯の麻紐まで油が飛ぶと、火は跳ねて火事になる、ランプを倒したりして、火事にならないように見守るのも子供達の仕事だった。
蛙は良く透き通った蚕を狙って朝夕静かにやってくる、敷居におすわりをし、口をパクと動かすと、数十センチ離れた蚕籠から、蚕が魔法の様に消えるのだ。
縁から敷居に登ってくる蛙を眠くなるまで、棒で蚕室の下の道まで跳ね除ける、これも子供達の仕事だ。暑い夜にはその蛙を狙っては、鴨居半分位の、長い青大将もやって来る。
夏の夜は長く朝は早い。
母、とく、作蔵と一緒に桑を採りに行った時です
きよこは先頭をきって、桑を籠に立て背負い子に載せ、桑畑から杉林を抜け
家への山道を笹を退けながら下っていく、朝霧が沢沿いをどんどん登ってきている
笹道をぬけると霧は沢沿いに少し残っていたが、山間の向こうに川中島平野が目の前に拡がった、目の下には沢へ降りる坂道が斜めにはしっている、崖端から左の尾根に出ると下はもう家だ。きよこは帰る時はいつも一番だ。富士の塔西斜面の崖端まで来ると、崖淵にこしかけて休む、背負い紐を緩め、背負子を少しだけ外し、背負子の足を立て、もたれて一休みだ。
大きな鷹が沢道の途中の、大きな杉切り株に「トン」と降りたった
川中島を望みながら笹の中の切り株に立つ姿は言い様も無くりりしい。
最後に下りて来た作蔵に、「作蔵、切り株のあそこに鷹がおりたよ」と指を指すと
作蔵は煙管に火をつけながら、母に何か告げていた
目の下、十数メートル下の切り株の鷹は、私たちが近くにいることを苦にもしていない、こんなに近くにいるのに・・・ときどき畑で鳶がネズミをもっていくのとは
ずいぶん違っていた。
鷹が全く動かなくなった時 鷹の足に大きな青大将がいる事に気付いた
尻尾を鷹が両足の爪で掴んでいた、ぐるぐると足から胴体に回っても鷹は全然動かない、鷹はさっきのりりしさが無い、細くなって、長くなって、青大将の頭が鷹の
頭に近づき「ぎゅっ」締めた、鷹が殺されると思った瞬間だった
一気に鷹は畳んだ羽を拡げて、バタバタバタと羽ばたいた、鷹は突然大きくなった。
大きな切り株の上に青大将のぶつ切りが散らばった、ぶつ切りになった肉片を一つ咥えて「バタ バタ」と目線まで飛び上がると、沢の合間を川中島に向かって滑空し、お宮の杉林を旋回して消えた。
作蔵はキセルを ポンと叩き 「いかず~」と声をかけた
いかず~ は方言で 行きましょうの意味だ 「ず」は行かないみたいだが・・・
作蔵はここが餌場だと知っていたのだろうか・・・・。
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