第4話 縁
父がお盆に帰郷した時の出来事だった。
朝晩は少し寒くなり始めていた、未だ陽が昇り一番鶏が鳴く前、縁の下の鶏が 「キキキ コケ コケ~~」と変な鳴き声で鳴いていた。
こんな暗い朝に鶏の声で起きてしまった、藁布団をゴソゴソぬけだし、土間に出た。
父も起きていたが、内縁から立ち上がり何も言わず 奥座敷の方に向かった、刀台から短刀の紐をほどきながら帰ってきた、土間から縁に上がるきよこの前を、襖を引く音も足音もさせない父が、一瞥もせず、餌を狙う猫の気迫で外縁に向かった。
外縁に置いたたばこ盆の横に静に立ち逆手で短刀を構えた、足先だけゆっくり開いた、同時に短刀を縁側に一気に突き刺した、「ギア」 猫をふんずけた時の鳴き声と「コケ コケ~~」の鳴き声と羽音で一気に、外縁の下、鶏小屋が騒がしくなった。
時々父は豹変する。
鶏を狙った猫が、何処からか縁の下に忍び込んでいたのだった。
「とく~ とく」と父がとくを呼んだ。とくはお勝手から土間の内縁に沿って、外縁
に走って来た。
作蔵と源さんもとくを呼ぶ声で表に出て来た、とくが外縁から短刀が抜けずにいると
作蔵がスッと短刀を抜き、短刀を拭き、刃こぼれを確認し、何事も無かった様に奥座敷に帰って行った。源さんは鳥小屋の柵を上げ、猫の後ろ足を持ち蚕室の先に消えた。いつもの朝以上の静寂がやって来た。とくは鶏小屋の水入れを終らせていた、この手際の良さは何だったんだろう。うっすら夜は明け始めていた。
年に数回やってくる雄のキジ虎が、外縁の金網の下で、額に短刀が刺さったまま、目を見開く姿は、まだ目の底に残っている。
宮尾家は侍の家で
剣術、馬術、砲術を昭和初期までやっていたとはどんな家だったのだろう。
家の土蔵には 数振りの刀や鎧、火縄銃や銃が太平洋戦争後期の供出まで
保管してあった。
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