第3話 小市は怖い

 小市は犀川が善光寺平に出る扇子の要に当たる場所だ、平林の長野側の出入り口の村である。

源さんと小市に馬車でお使いに出かけた、深沢城跡の尾根を下り、お先の崖まで山道を下り、白砂山が切れる権現沢の脇から小市の村にでる、小市は江戸時代まで松代藩の馬市が有り、松代藩が千曲、犀川、裾花川の治水を行い市村の渡しが出来るまで、北国街道は矢代で別れ、北国西往還は矢代の渡し、一本松峠と合流し、小松原までの山沿いに走る。東脇往還(松代街道)は松代側の山沿いを走っていた、西往還は西街道と云われて小市の渡しを渡り善光寺に至っていた。

小市の地名も市村の渡しが出来、北国街道も松代から善光寺へ向ったその市村の渡しにちなんで小市村の渡しなんだろう。

塀で挟まれた小市の路地が小田切からの入口だ、小市の路地を超えないと商店には行けない、左右とも石垣と土塀が数十メートル続き、「無常院」近辺にはお堀付きの旧家が今でも残っている、長野五輪をやった長野市長もこの辺のお堀付きお屋敷に住んでいた。何やら圧迫される嫌な空気が流れている場所だ。

その日は特別だった。

ももしきに、着物を帯にひっぱさみして、路地の端にヤンキー座りをしている男がいた。半肩を出した上半身、裸足に髪はオールバック、ももしきから出た脚はガリガリに細って、目が左右に開き、何処を見ているかわからないが、見張り番の様にこちらを睨んでいる。馬の鼻先が男に近づくと

突然!

「キウエ キュエ」と叫びながら 塀の高さ一間程有る塀の上にピョンと乗ったり 降りたり、土塀には二列の瓦が乗っていたが、瓦の音もさせずに 「キウエ キュエ」左右の塀に飛び移ったり、塀の上を移動したり、路地に飛び降りたり、きよこは自分のあだ名がキヨだったので呼ばれていると錯覚していた、小市の忍者に殺されると思った。

「大丈夫 あいつは攻撃しないから」

源さんは何も無かった様に馬車を止めずに通り過ぎた。

今思うと、危害を加えないから座敷牢にも入れられず、自由に暮らしていた精神障害者だろう、座敷牢はお屋敷には結構あった、社会がそれを許していたのだろう。

小市は怖いと思った。

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