第12話 土蔵の壁

 蚕室の縁からは向こぉん家の土蔵の屋根と壁が道を挟んで広く見れる。 

山風が涼しく、ひんやりとしていた。母達が桑をくれている間、弟をおぶってあやしていた。

当番がそろそろ街灯を灯す時間になっていた。目の前の土蔵の壁に丸く大きな明かりがオレンジ色にぼんやり当たっていた、北向きの壁にだが、夕日が当たっているか

厠の窓から光がもれているのか、影が映って「ゆらゆら」揺れている、明かりはゆっくり揺れていたが、影は壁に張り付いているかの様にはっきり映っている。自分の影が映っているかと、振り向いては明かりの元を探したが見つからない、手を振ってみたがきよこの影ではなかった。あまりはっきり影が映っていたので、少し眺めていた、影の姉さんがゆっくり振り向いてきた、横向きになると、背中に子供らしき頭の影が現れ、子供をあやしている、手ぬぐいを姉さんかぶりして、髪をあんこに上げている、顔の先に鼻らしき膨らみがあり、鼻の横から数本の髭が生えている、藁を咥えているのだろうか、その壁に映る影は針仕事でもしているかのように腕が時々上下している、桑をくれている間ずっとだったので十数分続いただろうか、ゆっくり向こうを向くと羽ばたいている様に思えた、また戻っては横向きでうなずくを繰り返し、髭らしき影は何か食べてるかのように小刻みに揺れていた、ぼんやり影が消え明かりもゆっくり消え、気付くとすっかり土蔵の壁は闇に消えていた、電気を消したのだろうと思った。次の日同じ時間、その土蔵の石垣に登って何処の灯りなのか確かめようと背伸びして眺めたが、石垣から見えるのは、道を挟んで目の前に有る蚕室の石垣、厠、蚕室のトタンの軒、向こうの沢の杉と笹だけだ、家には電気が通っていたが、厠にも蚕室にもは電灯は無い、満月の様に丸く光が当たっていたのだから、かなりはっきりした影だったのだから、何処からか電気の灯りが当っていただろうに、それから何度も石垣に登り壁の前に立ち、周りの眺めてみた、向こぉん家の前の道に村唯一の街灯が有ったのだが、土蔵の南側の電柱なのだから土蔵の裏表だ、何処の灯りなのかわからないままだ、土蔵の石垣の上のきよこのを見た人は、もっと不思議だったと思う。

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